2016年3月11日金曜日

Bulletproof Musician: 緊張を緩和する方法 - "価値の明確化"

Bulletproof Musician という英語のサイトの記事を、ランダムに翻訳するシリーズです。ミュージシャンのメンタル面に関する内容を扱っています。音楽をやっていない方でも、自己管理やマインドの問題に興味があるなら、是非ご一読下さい。


Values Clarification: a Novel Strategy to Reduce the Chances of Choking under Pressure


全米ゴルフトーナメントの最終日、最終コース。
スコアは1点差で首位。
あと1打で優勝に手が届き、キャリアの頂点に立つことができます。
目の前のホールまで、ほんの一歩。
眠っていても、目を閉じても成功するようなショットです。

他の選手や、友人や家族、テレビの前の世界中の観客たちが見守っています。
ふと、このショットを外したら、という考えが頭をよぎります…そして、その後のプレーオフ(延長戦)で負けたとしたら。

これこそ、全米ゴルフ協会の5大トーナメントのひとつ、2012年のクラフト・ナビスコ・チャンピオンシップで、I.K.キム選手が体験したことです。

ステージで演奏している際に、緊張から音程を外したり小さなミスをすることはよくあります。
しかし、完全に舞台が台無しになるような酷い失敗をすることは、滅多にないでしょう。

そういう時には、全ての歯車が狂いパニック状態で、自分が自分でないように感じるものです。
今まで自然にできていたことまで、突然上手くいかなくなります。

プレッシャーによって実力が発揮できなくなる経験は、誰しも覚えがあるはずです。
これは一般的に“Choking(窒息状態)” と呼ばれます。
キムの例は特別なものではありません。
多くのトップ・アスリートが同じような経験をしています。

いったい何故このようなことが起こるのでしょうか?



複数の要因

Choking の原因は単純ではありません。
多くの要因が重なり合って起こるものです。

そのうちの一つが、心の動揺です。
緊張すると、本来の自信が揺らぎます。
他人の評価や感想が心配になり、音を外したらどうしよう、といった考えが急に浮かび始めます。
目の前の音楽とは無関係の些細な点が気になりだし、不安が増幅されていきます。
そうして、演奏のディテールや音のニュアンスに払うべき集中力が、奪われてしまうのです。

また、考え過ぎることも問題です。
技術面や楽器のことついて、細部にフォーカスし過ぎてしまうのです。 
指の位置は合っているか、肘の角度は正しいか、などと考えすぎる余り、今まで自然にできていたことまでが上手くいかなくなってしまいます。


Chokingは防げるか

近年、スポーツ心理学の世界では、Chokingへの
様々な対応策が研究されています。
センタリング(『不安をプラスに変える方法)やイメージトレーニング、あえて緊張状態に身を置く練習方法など、メソッドは多岐に渡ります。

中でも、"価値の明確化"と呼ばれる方法があります。
聞き覚えのない方も多いでしょうが、内容は文字通りで、自分の価値観を見直す作業を行うものです。
例えば、なぜ音楽が好きなのか、なぜその楽器を選んだのか、あるいは人生において何が重要か、といったことなどです。


"価値の明確化"の検証

UCLA と UC Santa Barbara の研究チームが、緊張状態における"価値の明確化"の効果を調べるため実験を行いました。

85人の参加者に、信仰、政治、社会問題、理論、美学など様々なトピックについて、それぞれ関心の度合いを質問します。
続いて、Aグループ (the values group) には、最重要トピックについてさらに細かい質問が用意されています。
例えば、政治を選んだとしたら、金融界と政治界のどちらに興味があるかといったものです。
Bグループ (the control group) には、逆に最も重要度の低いトピックについて、同じように質問していきます。
(※"価値の明確化"を行ったのはAグループの方になります)

次に、参加者全員に、口頭で質問を行います。
その間、早く答えるように絶え間なく急かし続け、ストレスを与えます。

その後で、3つの方法を用いて緊張の度合いを調べます。
唾液中のコルチゾール (ストレス・ホルモン)の分泌量を測り、簡単な問診と、心拍数と血圧の測定を行うのです。


緊張の緩和

コルチゾール指数が低かったのはAグループの方で、これは実験終了後45分が経過しても変わりませんでした。
もっと言えば、Aグループにはほとんど変化が見られなかったのに対して、Bグループのコルチゾール指数は増加し続けていったのです。
心拍数の上昇は両グループ共に見られ、実験に対する姿勢に差はなかったにも関わらずです。

心理学的に言えば、Aグループのメンバーの方が、心理的ストレスが遥かに少なかったことになります。

更に、心理状態を調べるため、自己評価や自己肯定感についての問診を行います。
"価値の明確化"を行ったAグループの中で自己評価も高かった者には、あまり緊張は見られませんでした。
反対に、Aグループの中でも自己評価の低い者には、高い緊張が見られました。

この実験から、"価値の明確化"は、パフォーマンスにおける緊張を様々な角度から軽減する効果があることが分かります。
これによって緊張を緩和し、Chokingを防ぐことができるでしょう。

しかし、 真に一流のパフォーマーがこうした作業を行っているとは思えません。
"価値の明確化"が有効なのは、テニス以外の生活も充実しているような場合です。
例えば、運動生理学者として成功し、家族に恵まれ、庭でとれたトマトと全国から集めたスパイスが食卓に並ぶような家庭を築いているとします。
その場合、テニスに全人生を捧げている訳ではないのですから、大きな試合が近づくまでは、テニス・プレイヤーである必要はありません。

では、生活の全てをテニスのみに捧げている世界トップレベルの選手(あるいはミュージシャン)の場合は、どうすればいいでしょうか?


その後のキム

キムは、パットを外した時こそ動揺しましたが、後にこれを “いい経験” と呼んでいます。
“自分の行為を過度に重要視するのは良くありません。ゴルフは私の行動の一つに過ぎなくて、私自身ではないのですから。"
そう考えることで、彼女は苦い記憶から自分自身を切り離すことができたのです。

さらに彼女は、ミスを繰り返さないために、あらゆるやり方でパットを行い、その姿を録画し分析しました。
そしてオフには、ギターを弾いたり、フランス語を勉強したり、人と交流したり、ゴルフとは無関係のことをして過ごしています。


Take action

自分の核となる価値観について、考えてみて下さい。
モチベーションは何か。
何を優先するべきか。
何故それを選択したのか。
いちばん大事なものは何か。

普段こうしたことを考える機会は多くないと思いますが、やってみると発見もあり面白く感じるはずです。
それでステージ上での緊張がなくなるなら、やらない理由はないでしょう。

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