花泥棒


下北沢の花泥棒という喫茶店でこれを書いています。
駅の反対側にもう1店舗と、原宿店と、合計3店舗あります。
下北か原宿でコーヒーを飲むときには、大抵ここです。
特に原宿店は、竹下通りの裏手で人通りも多くなく、うるさい若い客も来ないのでとても落ち着ける。

昔は、渋谷店もありました。
東急ハンズの向かい側の、たしか二階。
円形のカウンターが赤く塗ってあるのが好きでした。
流れるのはフランスのポップスやシャンソン。
渋谷で休みたい時はここに行き、カウンターの窓際に座って、本を読んだりして過ごしました。
とても好きな場所でした。
新宿トップス・ビルにあったユイット、原宿にあったオー・バカナルと並んで、忘れられない店です。
ああ、あと表参道の大坊珈琲店もなくなってしまいました。
寂しい。

渋谷店は大好きでしたが、そこまで頻繁に通ったわけではありません。
いちばん大きな理由は、値段です。
現在、コーヒー一杯750円。
当時からそんなに値上げしていないと思います。
ハタチそこそこで高円寺でバイト暮らしをしていた身としては、安い金額ではなく、足が遠のく時期もありました。

そして、しばらく期間が空いて、久しぶりに行ってみたら、なくなっていました。
悲しかった。
大好きな空間だったのに。
渋谷で休まる場所がなくなってしまった。
その時思いました。
好きな店には、足を運ぼう、と。

それ以来、下北沢か原宿に来て時間があれば、花泥棒に寄るようにしています。
お金のない時でも、なるべく来ます。
知らない内になくなったら悲しいから。


カウンターに座って、ネルドリップでコーヒーを淹れる姿を見るともなく眺めるのが好きです。
目の前にいる男性店員は、僕がハタチの頃から働いています。
他の店員も、主な顔は昔から変わっていません。
みんな、佇まいが素敵で。
この店を好きな理由のひとつです。

お金で買えるのって、モノだけじゃない。
空間や時間や人や、目に見えないものにも、対価を払っているんだと思います。

花泥棒に来るとき、迷うことも正直あります。
でも、来て後悔したことはありません。
いつでも、店を出るときには豊かな気分になっている。
この気持ちは、ここでしか買えません。

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