O'Brien ヴィンテージ・マウスピース

有名なヴィンテージ・マウスピース、オブライエンを試奏しました。




僕がオブライエンに興味を持ったのは、Rick Bogart というジャズ・クラリネット奏者がきっかけです。

ニューオリンズのレストランの中庭で、昼間にトリオで演奏していた時のことです。
休憩中にお客さんが話しかけてきました。

「自分はNYに住むクラリネット奏者だが、ニューオリンズのスタイルが好きで、昔はニューオリンズに住んで演奏していた時期もある、君の演奏が気に入った、次はどこで演奏するんだ~」と。

ニューオリンズでは、そういう時、相手がミュージシャンであれば飛び入りで吹いてもらうんですが、彼は楽器を持ってきていません。

それで、数曲歌ってくれました。
楽器ないからって歌で飛び入りするなんて、珍しいことです。
面白い人だな、と思いました。

そして、僕の夜の演奏も聞きにきてくれました。

やはり楽器は持っていなかったので、彼の演奏を聞くことはできませんでした。
いろいろ話して、NYに来たら連絡くれ、とかなんとか言って別れました。

後で調べて録音を視聴してみたら、その音色の素晴らしいこと!
柔らかい、メロウな音色。
音色でいったら、僕の中では1,2を争うくらい好みです。
さっそくCDを買いました。
それでメールでやり取りをする中で、彼がO'Brienのマウスピースを使っていることが分かったのです。


それからずっと気になっていたのを、ようやく、2本試奏することができました。

オブライエンは、ヴィンテージ・マウスピースの中でも評価が高く、メロウで柔軟性があると言われています。
吹いてみると、まさにその通りです。
僕の吹いたものは2本ともリフェイスされていたのですが、どちらもキャラクターが似ています。
音色はメロウですが、こもった感じはありません。
そして、とても柔軟で表情がつけやすいです。
息が、マウスピース内部で響くのではなく、直接音になるような感じです。
音量もあります。
高音も、軽く当たります。

クリスタル・マウスピースではポマリコが有名ですが、全く違います。
ポマリコよりもずっと音も吹奏感も柔らかく、息も多く入ります。

素晴らしいマウスピースだと思いました。
今まで吹いたヴィンテージの中でも、トップクラスです。
そして、美しい!
使わなくても手元に置いておきたいと思うくらいに、ガラスが美しいです。
マウスピースですから、合う・合わない、ということがありますが、それでも、機会あれば買って損はしないと思います。

ただ、リード選びが難しそうです。
いくつかのリードで試しましたが、リードが合わないと、なかなか上手く鳴りませんでした。

フェイシングも色々あるようですが、本体の数字が特定のフェイシングを表しているわけではないようです。
時代によって表記が異なるためと思われます。


O'Brienについては、Clarinet Perfectin という英語サイトの記事が詳しいので、以下に翻訳してみました。
サイトには、フェイシングの表や、著者の所有するマウスピースのレヴューもあるので、興味あれば元サイトを参照ください。

オブライエン氏は、キャリアの初期にはセルマーのClarion というクリスタル・マウスピースを製作していました。
”O'Brien”の名前でマウスピースを作り始めたのは、1940~1950年辺りからのようです。

オブライエン・マウスピースは1980年代まで作られていましたが、年代によって差があります。 
初代のハリー・オブライエンは1950年代に亡くなり、息子がその後を引き継ぎました。
1980年代初頭には、オブライエンのいとこがマウスピースを製作しており、もはや質が高いとは言えないものでした。

初期のマウスピースには、やや暗い、時にはピンクがかったガラスが用いられ、多くの場合、本体に日付が彫ってあります。
1940年代初期にハリー・オブライエンが製作したものには、ガラスが透き通っておらず気泡が入っているものも多く見られます。
おそらく、"ピュア" すぎるガラスは、マウスピースには向いていないのだと思われます。 

1950年代には、オリジナルの雛型が失われてしまいます。
オリジナルには、側面に3本づつ、合計6本の溝があったものが、1960年代の型では、側面の溝は1本になっています。

また、ハリー・オブライエンはセルマーのPrimerクラリネットの製作も行っていましたが、これはすでに1940年代には息子が引き継いでいました。
有名なところでは、ピート・ファウンテンが、マウスピースと共にクラリネットもオブライエンのものを使用していました。
マウスピースの利用で有名なのはトニー・スコットです。
1950〜1960年代のスタジオ・ミュージシャン時代に、オブライエンのマウスピースを使用していました。 
 
本体に刻まれている"OCB"の記号は、"Off Center Bore"を意味します。
(※"Off Center Bore"がどういう仕組みなのか、調べても分かりませんでした。肉眼で見ても、普通のマウスピースとの違いは判別できません。マーケティングのためのキャッチコピーに過ぎないのでは、という意見もあるようです。)
オブライエンのマウスピースは、フェイシングの良さに定評があり、ジャズおよびクラシックのプレイヤーの間で人気を誇ってきました。
しかし、セルマーの下請けと代理店をしていたために 、マウスピース製作者としては過小評価されています。

O'Brienは、eBayでも出品されていますし、英語で検索すると、どこかのショップが売りに出してたりもします。
ヴィンテージではあっても、素材がガラスなので経年変化がありませんから、チップがすり減っている様なこともないと思われます。
1950年代のものが良いようですが、さすがに高いです。
まあ、相性もありますし、60~70年代のものでも値段によっては買ってみても良いかと思います。
いいマウスピースであることは、間違いありません。

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