Bulletproof Musician: 実践に向けた練習法 - 「正しい練習」の盲点

Bulletproof Musician という英語のサイトの記事を、ランダムに翻訳するシリーズです。ミュージシャンのメンタル面に関する内容を扱っています。音楽をやっていない方でも、自己管理やマインドの問題に興味があるなら、是非ご一読下さい。

Ace Your Next Performance by Practicing Like a Tennis Pro


テニスの試合中の運動量を距離に換算すると、1時間あたり約1.5km相当になると言われています。
3時間を超える試合ともなると、かなりの運動量です。

こうした長時間の試合をこなすためには、高い心肺機能が必要となります。

もちろん、心配機能のトレー二ングは、スポーツ全般に欠かせないものです
例えばマラソン選手の場合でも、最初から長距離を全力で走るわけではありません。
短い距離をゆっくり走ることから始めて、だんだんと距離を長くし、ペースを上げていく練習を繰り返します。

こうしたトレー二ング方法は非常に効果的です。
しかし、テニスの場合は、これだけでは十分ではありません。
マラソンのように一定の速度で動き続けるわけではないからです。

テニスは、瞬発力のスポーツです。
走ったり止まったり、常にペースが変わります。
個人差はありますが、だいたい3秒ごとに状態が変化すると言われています。

そのため、変化に対応するための練習も必要となります。
心肺機能のトレーニングに加え、ダッシュやインターバル練習、 瞬発力、前後左右の動作練習などを行うのです。

では、これを音楽に置き換えて考えてみましょう。


「正しい練習」のマイナス面

ステージに上がったら、どんなに緊張していようとも演奏を開始し、些細なミスやアクシデントに左右されずに最後まで集中力をキープしなくてはなりません。

しかし、こうしたステージの状況を想定した練習は、ほとんど行われていません。
多くのミュージシャンは、リピート練習に時間を費やしています。
特定のフレーズを何度もリピートし、ある程度したら次のフレーズに移る、というものです。
これは確かに効果のある練習法ですが、ステージでの状態とはかけ離れてます。

以前の記事 「1日に何時間練習するべきかで、「正しい練習」とは、課題を細かく区切り、分析・検討・実験を行うことだと説明しました。
これは、テクニックの向上には非常に効果的ですが、実際のステージの演奏とは直結しません。

「正しい練習」とは、客観的に分析し、演奏を細部まで研ぎ澄ます、非常に論理的な作業です。
対してステージ上では、いかにポテンシャルを解放できるかが重要となってきます。
自分の能力を信じ、その瞬間に鳴っている音に意識を集中させること。
そのためには、「スコアをつける」のを止めることです。


「スコアをつける」弊害

演奏中、過去のミスが頭に浮かぶことがあります。
これは、まるでテニスの審判員がするように、ミスの記録をつけているからなのです

我々は、スコアを記録することに慣れすぎています。
赤ちゃんのトイレの記録、こどもの「良くできました」表、夫の善行ログ、報告書、学力テストのスコア、仕事の評価レポート等、あげるとキリがありません。

もちろん、練習の際にノートを取って分析する作業は、技術の向上のためには欠かせません。
しかし、そればかりに頼っていると、逆に本番の演奏に悪影響がでてしまいます。
分析をしながら同時に自分を解放することは不可能だからです。
座りながら立つ、ということがあり得ないように、それらは相反する状態なのです。

心理学者Mihaly Csikszentmihalyi氏が明らかにしたように、自分を「解放」するカギは、「現在」にフォーカスすることにあります。
過去と現在とに同時にフォーカスすることはできません。
ミスのイメージが頭に残っていると、
(a)さらなるミスを招き、
(b)鳴っている音から意識がそれ、いつもの演奏ができず、
(c)本来の力を発揮する可能性が失われてしまうのです。

Csikszentmihalyi氏の講演の動画 (英語)です。
集中力の量は有限であること、その全てを1つに注ぐと、「フロー」「ゾーン」と呼ばれる状態になること、そして「フロー」体験が多いと人生の幸福感が増すこと、が語られています。


習慣を正す

練習中、頭の中でスコアをつけている割合は、どれくらいでしょうか。
かなりの時間を費やしているのではありませんか?
リピート練習に熱心なほど、スコアづけが習慣となっているはずです。

習慣となったものを変えるには、テクニックが必要です。
本番へ向けた意識の切り替え方法を、次に紹介します。


Take action

得意なフレーズを演奏し、録音します。

まず、センタリングによって集中力を高めます。
そうして「現在」にフォーカスしながら、ベストな演奏を行ってください。
自分の音をよく聞き、求めるイメージに集中します。
「現在」にフォーカスしている限り、未来や過去に関する雑念や、些細なミスなどに意識がいきません。
演奏し終えたら、どれだけ「現在」にフォーカスできたかを、100点満点で評価します。
この作業を、平均が90点になるまで続けます。

録音機がスコアをつける役目となる点がポイントです。
それによって、スコアを気にせず練習ができるようになります。
もちろん、気になる箇所があれば、後から聞きなおすことも可能です。


「正しい練習」では足りない

テニス選手のように、普段から、実践に即した練習を行うことが重要です。
そうすることによって、必要なときに、スコアをつけるのを止めて意識を切り替えることができるようになります。

さらに、ステージの状況をより具体的にイメージして、何が必要か考えてみても良いでしょう。
例えば、どんなメンバーで、どんな場所で、どんなジャンルの音楽を演奏するのか。
演奏者の人数やマイクの有無などによって、練習で意識する点も変わってくるはずです。


The one-sentence summary

“皆、過去や未来のことを考えすぎるのだ。
こんな言葉がある。…昨日は歴史であり、明日は謎であり、今日はギフトである。
「現在(Present)」と「プレゼント(Present)」が同じスペルなのは、偶然ではないのだよ。”  

カンフー・パンダ』のウーグウェイ導師のセリフ

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