Bulletproof Musician: 「あがり性」について私が知ってる二、三の事柄

Bulletproof Musician という英語のサイトの記事を、ランダムに翻訳するシリーズです。ミュージシャンのメンタル面に関する内容を扱っています。音楽をやっていない方でも、自己管理やマインドの問題に興味があるなら、是非ご一読下さい。




What Is Performance Anxiety, Really?
http://www.bulletproofmusician.com/what-you-may-not-know-about-performance-anxiety/


憧れのバイオリニスト、イツァーク・パールマンの特別講義に参加たときのことです。
本番で緊張しないためにはどうすればいいか、という質問がありました。
パールマンの答えは、「敵を知ること」でした。
つまり、緊張した時に自分がどうなるかを、知っておくこと。
事前に分かっていれば対処法を用意できるので、ステージ上であわてる必要がなくなります。

いいアドバイスです。
では、「敵」とは何か、具体的に考えてみましょう。


あがり性の定義

あがり性、舞台恐怖性、演奏恐怖性など、本番での緊張状態を表す言葉はたくさんあります。
厳密には内容が異なるものもありますが、ここでは、”あがる”という現象について考えてみます。

定義としては、
不安や心配から、ネガティブな思考が起こり、身体的に反応が出る状態
とされます。

この定義からすると、”あがる”ことには3つの側面  〜感情・思考・身体〜 があります。


あがり性:3つの要素
     
身体
周りの状況に対する身体の反応です。
鼓動が早くなる、血が上る、呼吸が浅く速くなる、筋肉が硬くなる、手が冷たくなる、といったことが起こります。

思考
周りの状況に対する頭の反応です。
自信の喪失、心配や不安、失敗するという考え、集中力の低下、記憶が飛ぶ、といったことです。

感情
周りの状況に対する感情の反応です。
恐怖、パニック、周囲への不信感、などです。

あがり性を3つの側面に分けて捉えることは重要です。
それによって、対策を個別に考えることができるからです。
そして、3つは相互に関係し合っていますが、1つが改善されたとしても、それによって残り2つが改善されることはありません。


二種類の不安

さらにややこしくなりますが、不安には「状況不安」と「特性不安」の二種類があります。
「状況不安」とは、置かれた状況に対して不安を感じること。
「特性不安」とは、日常的に不安を感じる度合いのことです。

例えば、大事なオーディションで緊張することは、状況不安です。
対して特性不安とは、もっと一般的な事柄、例えば車の運転や、人に紹介されたり、初めての場所に行ったり、デートの時などに感じる緊張です。
性格、と言っても良いでしょう。

私が出会ってきた中にも、いろいろなタイプがいました。
不安性なくせに、ステージ上では自信に溢れているタイプ。
反対に、普段はオープンで動じないのに、ステージでは緊張して震えてしまうタイプ。
しかし多くの場合、演奏に自信がなく自己評価が低いミュージシャンは、日常生活でも同じようなタイプであることがほとんどです。
たいてい、自信が持てず、人の評価を過度に気にし、自分を信じることができません。

若く人見知りの、才能あるバイオリニストがいました。
彼の演奏には、大胆さが欠けていました。
音量やテンポ、緩急の差など、あらゆる面において大きな変化をつけるのが苦手なのです。
技術はあるのに、ミスを恐れてしまう。
ステージ上ではさらに顕著で、緊張すればするほど、当たり障りのない演奏になってしまいます。

彼の場合は、普段から堂々とした振舞いを意識することが、大きな意味を持ちました。
それによって、ステージで萎縮して殻に閉じこもりがちだった部分を、変えることができたのです。
彼のこれからの人生を考えても、大胆さは大きな助けになるはずです。
新しいことに挑戦したり、様々な場所で多様な人々と出会うことで、心理的な防御壁が取り払われていきます。
それによって、音楽的な幅もどんどん広がっていくでしょう。


演奏に生かすには

思い通りの音色を得るためには、自分の楽器の仕組みを理解することが重要です。
それと同じように、"あがり性"の仕組みと、緊張状態で自分がどうなるかを知っておくことも、ミュージシャンにとって重要なのです。
あらかじめ知っていれば、有効な対処法のストックを増やし、どんな状況でも乗り切れるように準備できるからです。

例えば、緊張が身体に出てしまう場合、どうすればいいでしょうか。
方法はいくらでもあります。
重要な筋肉をリラックスさせる方法を学び、緊張しても影響の少ない指使いを研究すれば良いでしょう。
あるいは、手に血の気がない場合など悪条件での演奏に慣れることも、役に立つはずです。

緊張からくる不安にも、対処法はあります。
目の前のタスクに集中し、心を落ち着かせ、最高の演奏をしている姿を想像してみてください。
そして、普段から自信を育てるよう心がけることです。

緊張を避けるのではなく、共存するべきなのです。


3方向からの対策

"あがり症"は、緊張状態の影響が身体・思考・感情の3つの側面に及ぶことだと考えます。
3つに分けて対策を取ることで、緊張状態で起こり得る様々な問題に備えることができるのです。

緊張しないようにする、という考え方は、間違っています。
それよりも、緊張したときの対処法を、身につけた ほうがいい。
そのためには、「練習」として練習するのではなく、「本番」を想定して練習するべきです。

練習前に、あたりを走ってきてください。
鼓動が速くなり呼吸が浅くなっても、きちんと演奏できるでしょうか。
試しに、練習中にTVかラジオをつけてみて下さい。
それでも曲に集中したままでいられますか?
あるいは、ドレスアップしてビデオカメラの前で演奏してみます。撮り直しはなしです。
一度で完璧な演奏ができますか?

緊張状態でどうなるかを知ることが重要なのです。
どの筋肉が硬くなるのか。
音程は、高めになるか低めになるか。
テンポは走るか、それとも遅れるか。
覚えた曲が飛ぶのは、どんな箇所なのか。

“敵を知ること” – 素晴らしいアドバイスです。


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