『ブラジル・バン・バン・バン』でエルザは、恋人より音楽を取る、と言った

『ブラジル・バン・バン・バン』を見てきました。

主役は、トーキング・ラウド主宰として有名な、ジャイルズ・ピーターソン。
彼がブラジルに行って、現地のミュージシャンを集めてアルバムを作る過程を追った、ドキュメンタリーです。

本当にそれだけの映画です。
レコーディングや町の様子をさらっと記録して、特に何かを掘り下げたりしません。
上映時間も短く、気軽にブラジル感を味わえる小品でした。

中でのハイライトは、エルザ・ソアレスの録音シーンです。
スタジオでバラードを歌うんですが、これがもうね、ものすごくいいんですよ!
素晴らしい歌手です。
でも惜しむらくは、顔や手をアップで映すのが、邪魔なんだなー。
確かにたまんない顔で歌うんですけど、それにカメラが寄るのはやり過ぎでしょ。
あれだけ心から歌ってるのに、作為的な演出は合わない。
歌を聞かせて欲しい。
凝った構図とかもなしに、引きで固定で撮ってほしかったな。
僕は歌が聞きたくて、そのシーンの間ずっと目をつぶって耳を開いていました。


その前のシーンで、エルザは言います。
音楽と恋人(確か英語字幕でLoverになってたと思います)なら音楽を取る、なぜなら音楽は決して裏切らないから、って。
どうやら波乱の人生を送ってきた人みたいです。
しかし、老いてこのセリフ。
うーん。

音楽は裏切らない、っていうのは、ものすごくよく分かります。
僕も事あるごとに同じ言葉が頭をよぎるし、誰かに実際そう言ったこともあると思います。 
音楽があれば、大丈夫。

でも、僕はその上で、音楽以外でもまわりの人と繋がりたい。
音楽は、いつでも裏切らない。
そう感じられたら、すごく心が安定します。
そして、自分の心がいい状態にあることで、ようやく他人の心も気づかえるんだと思うから。

音楽があれば大丈夫なことは、分かってる。
なら、毎日どんなことが起こっても、けっきょく大丈夫なわけで。
だったら恐れずに何でもやってみたい。
誰かに裏切られても、最後には音楽が救ってくれるんだから、安心してどんどんやってみたらいい。
って思うんです。

エルザも、恋人より音楽って、本気で心から思ってるんじゃないんじゃないかな。
いろんな悲しみや諦念を消化した上で、それを全部吐き出す、というか、解放する。
その手段が音楽であって、感情を歌に昇華させるようなことを、彼女はやってるんだと思うんです。
恋人より歌を取る、と口では言うけど、それは本当は、音楽があるから大丈夫、って自分に言い聞かせてるんじゃないのかな。

そんな風に思いました。
いやしかし素晴らしい歌でした。


映画が終わって、ジャイルズに挨拶して、明日の上映後にライブやりますって言って、コロリダスのラフ音源を渡しました。
映画の印象と同じ、気取らない人でした。

それにしても、連日どうやら満席みたいです。
ブラジル音楽ファンて、そんなにたくさんいるのかな。
それともジャイルズのファンなのかな。
分からないけど、お客さんが入るのは、いいことです。

そのあと新宿OPENに、リコ・ロドリゲス追悼ライブを見に寄りました。
DJでもリコの音源がたくさんかかって、改めてまとめて聞いたけど、ニューオリンズのトロンボーンに近いものがありますね。
ライブも、ゲストも入ってかなり盛り上がりました。
しかし、ライブが始まったのが終電後という。
まあチャリだったからいいけど。


さて、今日は『ブラジル・バン・バン・バン』上映後に、コロリダスでミニライブをやります。
よく思うんですが、僕はアメリカ音楽ばっかり聞いてきて、ブラジルやラテンに詳しいわけではありません。
色んな場所で演奏するときに、僕でいいのかなって気持ちになるんです。
みんな僕よりたくさんブラジル音楽を愛してるんだろうし、そのみんなの愛に触れるような演奏が、できるのかな、演奏する資格があるのかな、って。
別に僕を聞いて欲しいんじゃなくて、僕を通して音楽を聞いて欲しいので。

今日は、少しはブラジルの音が出せたらいいな。

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