2014年8月27日水曜日

僕の考える「ニューオリンズ・ジャズ」

僕の根っこにあるのは、ニューオリンズ・ジャズです。
ニューオリンズの音楽を愛してますし、聴いて、考えて、研究して、実践してきました。
ただ、実はこの「ニューオリンズ・ジャズ」という呼び方が、非常に曲者なんです。
おそらく、この言葉から一般に想像される音楽と、僕が持ってるイメージの間には、かなりの開きがあります。

まず前提として、日本で「ニューオリンズ・ジャズ」を演奏してるバンドは、僕の知る限りほぼ皆無です(一部のマニアックな音楽シーンもあるのですが、普通の人がそこに出入りすることはないと思うので、触れません)。皆無なので、ニューオリンズ・ジャズに触れる機会自体、なかなかありません。
え?
そんなことないよ!いいバンド知ってるよ!って?
いや、実はですね、それらのバンドが演奏しているのは、「ディキシーランド・ジャズ」という、似て非なる音楽なんです。


まずリズムの感覚が違います。
「ディキシー」は、リズムがメトロノーム的で、カチカチと機械のように正確です。
「ニューオリンズ」の方は、リズムをゆるく大きく捉えていて、常にウネウネと揺れています。
リズムについては、感覚的なことなので、実際に音楽をやってないと分かりづらいかもしれません。

もっと分りやすい特徴は、テンポです。
「ディキシー」は、とにかくテンポが速い。
「ニューオリンズ」は、速い曲は基本的にやりません。

そして、「ディキシー」は各楽器のソロの割合が多い。
音数も多く、盛り上げるために高音を多用し、曲芸的な技も使います。
「ニューオリンズ」は、ソロよりもメロディの演奏が重視されます。
ソロがあっても、高音やトリッキーな演奏で気を引く、といった発想はありません。
音数は少ないほど良しとされます。


ニューオリンズ音楽の歴史を語る上で外せない、Bill Russellという人物がいます。
ミズーリ州に生まれ、現代音楽の作曲家として活躍した後、1950年代にニューオリンズに移り住み、研究者・歴史家として大きな功績を残します。
多くのローカル・ミュージシャンにインタビューを行い、資料を集め、チュレーン大学にHogan Jazz Archiveを設立しました。
今でも、チュレーン大学に行けば、それらの資料が閲覧可能です。
ニューオリンズ・ジャズについても、American Music というレコード・レーベルを運営し、ベテラン・ミュージシャンの録音を精力的に行いました。

著作もいくつかあり、その中に "New Orleans Style" というインタビュー集があります。



ニューオリンズ・ジャズの歴史的ミュージシャン達、サッチモの Hot Five のメンバーや、Bunk Johnson、Sweet Emma、Paul Barbarin、Edmond Hallなどの、貴重な発言が収められています。
英語ですが、読む価値のある名著です。
Amazonか、アメリカのJazzologyで買えます。

序文で、Bill Russelがニューオリンズ音楽について説明しています。
New Olreans Style has never encouraged the hectic rushing and frantic, hysterical screaming that passes for jazz in many places. Instead, moderate, relaxed tempos to which people can dance or march, even in a hot climate, are chosen. 
(ジャズというと、どこでもみんな狂ったように速く、金切り声をあげるようにして演奏してる。
ニューオリンズの流儀は違う。暑さの中でも人々が踊ってパレードできるように、ゆったりとリラックスしたテンポが基本なんだ。)

そもそも、ブラック・ミュージック全般を見渡してみると、速いテンポの曲は多くありません。
黒人音楽の気持ち良さは、スピードよりもグルーヴ、タメやうねりですからね。
対して、白人系の音楽は速い曲が多く、大声出して騒いで、スポーツのように汗をかいて楽しむ。
と、単純化しましたが、テンポを速くすれば盛り上がる、というのは、Bill Russelの考えるニューオリンズ・ジャズとは相容れない感覚なわけです。


同じ文章の中で、メロディの大切さについても触れられています。
In New Orleans style the melody is always to be clearly heard.--(中略)--The Tune is not obscured by harmonic padding and complicated arrangements, for these misicians know that the secret of true excellence in music, as in life itself, lies in simplisity. 
(ニューオリンズの流儀では、メロディが常にしっかり聞こえてないといけない。--(中略)--余計な和音や凝ったアレンジで曲がぼやけてしまう様なことはない。ミュージシャン達は、音楽を本当に美しく輝かせるには Simplicityこそ大事だと解ってる。人生と同じだよ。)
いわゆる「ジャズ」では、曲のメロディが演奏されるのは最初と最後だけで、あとは各自のソロです。
ニューオリンズ・ジャズの場合もソロはありますが、短くシンプルに収めます。
アドリブというよりはメロディをそのまま演奏するだけのことも多いです。
凝ったアレンジはせず、複雑な和音や細かいコード進行を付け足すことは敬遠されます。
「ジャズ」という単語から一般的に連想する音楽性とは、真逆と言ってもいいかもしれません。


上の文章の中に「Simplicity」という言葉が出てきます。
素朴さ、とでも言うのでしょうか。
これは、僕もニューオリンズにいた頃、年配のミュージシャン達から繰り返し聞いた言葉です。
例えば今でも、クラリネット奏者のChris Burkeが「That Simplicity! Beautifull!! 」と言う姿が目に浮かびます。

「Simplicity」こそ、この音楽の核心だと思います。
これは、音数が少なければいいというものでもありません。
装飾過多のフレーズやお客の注意を引くトリッキーな要素など、余計なものは必要ない、というよりむしろ、余計なものがあると音楽の本質が濁る、という感覚。
濁りのない、なにか音楽の本質みたいな神聖なものに近づきたい、という、スピリチュアルと言ってもいい感覚です。
音楽の素晴らしさに比べたら、自分なんて偉くも何でもないんです。

確かに、音楽を演奏することには、ストレス発散的な面もあると思います。
でも、ニューオリンズの感覚では、それだけじゃない。
僕はニューオリンズ音楽のその部分、Simplicityの深さに心を動かされて渡米しました。
濁りのないSimplicity。
それを、追求していきたいと思っています。

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