N.O.生活(渡米前)6 - 音楽フェスティバル、Raphael Saadiq

S.F.では、ライブにはあまり行きませんでした。
ライブやってる場所が、見つからなかったんですよ。
街の中心部の、観光客が来るようなレストランとかバーではライブもやってましたが、そういうのは興味なかったので。
ネットや情報誌でも多少は調べましたが、よく分かりませんでした。
カリフォルニア州のもっと下の方の地域にはディキシー・ランド・ジャズのシーンがあって知り合いもいるんですが、S.F.は関係ないようだし。
ホテルの近くのイタリア人地区の店で、たまに弾き語りを見たくらい。
ヘイト・アシュベリー地区に出入りしたり、ちょっと離れてバークレーまで行けば、何か見つかったのかもしれませんが。


フェスティバルに3つ行きました。
ひとつは、ゴールデン・ゲート・パークのフリー音楽イベント、「Hardly Strictly Bluegrass」。
アメリカって、フリーの野外イベントが多いです。
多くの町で、毎週どこかでイベントが開かれています。
だから、普通に生活してるだけで、質の高いライブ・ミュージックに触れる機会が山ほどあるんですよね。

ゴールデン・ゲート・パークは、巨大です。
そこにたくさんのアーチストが来て、公園中でライブをやります。
大物も来ます。
リチャード・トンプソン、エミルー・ハリスとか。
良かったのは、エルヴィス・コステロ。
ボーカリストとして、大好きなんです。
ストリング・バンド的な地味なセッティングで、コステロもバンドの一員という感じで座ってギター弾きながら歌ってました。
やっぱりいい声!
自然体のコステロがいて、こっちも芝生に座って自然体で聞けて、すごく楽しかった。
来日したら、今ならビルボードとかのどうしようもないハコで10000円くらい払って音楽に興味ない店員の心のない接客を受けてありがたく拝聴する羽目になるでしょう。
そんなの、音楽体験とは言えない。
本人が動いてる姿が見れる、というだけでしょう。
とはいっても、日本にいたらそういう環境でしか有名ミュージシャンを見る機会はないですからね。
残念なことです。
あとは、元ブラスターズのデイヴ・アルヴィンがアメリカではすごく人気があることも、この時に知りました。
僕はフィル・アルヴィンの方が好きですけどね。


S.F.ブルース・フェスティバルにも行きました。
4〜50ドルだったと思います。
ジェームス・ブラウンを見ました。
もう高齢でそんなに動けないし、ライブ的にも決してすごいというわけではありません。
でも、観客もミュージシャンも、すごく敬意を持っていてあたたかい。
会場全体がJBを見守ってるような雰囲気でした。

これもアメリカで感じたことですが、歳を取ったミュージシャンを、すごく大事にするんですよね。
圧倒され感動するようなパフォーマンスは、もうできない。
そういう期待より、そのミュージシャンに、会いに行く感覚なんですよ。
それは、ミュージシャンと観客の間に確固な壁のある日本では、まず起こらないことです。
すごく健全で、羨ましいと心から思いました。

芝生で休んでたら、隣にいたのが実はサンタナの息子でした。
そういうことがあるのも、アメリカです。

Rosebud Agency という、音楽マネージメント会社があります。
そこの社長の奥さんが日本人で、ネットを通じて知り合いになりました。
サオリさん。

大きな事務所ではありませんが、本当にいいアーチストとだけ仕事をしていました。
ジョン・リー・フッカー、ヴァン・モリソン、ニール・ヤング、ロス・ロボスや、J.J.ケイル、メイヴィス・ステイプルズ。ニューオリンズ系でも、アラン・トゥーサン、ボーソレイユ、マルシア・ボウル、等々。

ヘイト・アシュベリー地区にオフィスがありました。
社長のマイクは、穏やかで線の細い感じの人。
当時は僕もまだ英語があまりできず、残念でした。
もっと色々話したかったです。

サオリさんは、すごく素敵な人でした。
若い頃は日本で歌っていて、バック・コーラスなども多くやっていたそうです。
で、誰かの来日について来たマイクに出会い渡米し、会社を手伝うようになったんです。
ハッピーでオープンで正直で魅力的な人。
また会いたいな。

サオリさんに連れられて、郊外の黒人向けのフェスティバルに行きました。
お客はほぼ黒人のみ。
野球場みたいな場所で、寒かった。
出演者は知らないミュージシャンばかりなので、バンドを聞くというより、雰囲気込みでイベントを楽しむ気持ちでいました。

中盤くらいでした。
スリムなスーツに黒メガネの、テンプテーションズ時代のデヴィッド・ラフィンみたいな若い黒人が、テレキャスを抱えて登場しました。
カッコいい!!
たしか一曲目は、フォートップスの"I Cant Help Myself" でした。
いや、記憶が曖昧なので、カバー自体やってなかったかもしれませんが、僕の受けた印象は、ソウル・トレイン以前の60年代のモータウンだったんです。

それが、Raphael Saadiq でした。
衝撃でした。
他の出演者は、良くも悪くも今のサウンドです。
その中にあって、独自の明確なコンセプトと素晴らしい楽曲とサウンドとステージング。
ソングライディングから、バンドの音の隅々、自身のギターのちょっとしたフレーズひとつまでが、過去の音楽の遺産を消化した上で成立しています。
そのクリエイティヴィティは突出していました。
ミュージシャン、そしてパフォーマーとしても圧倒的。
最高のステージでした。
何の予備知識もない出会いだったこともあり、忘れられません。

ちなみに、イベントのトリはメイズでしたが、あまり印象に残っていません。


サオリさんにSaadiqの名前を教えてもらい、早速CD屋に行きました。
今はソロとプロデュース業をしていますが、元々トニ・トニ・トニというグループにいたそうです。
アルバムを片っ端から視聴しましたが、どれも今時のR&Bです。
全然かっこよくない。
うーん、あれは何だったんだろう。

そうしたら、それからしばらくして、"Way I See It"が発表されました。

まさにあの時のライブのサウンド!
大名盤です。
Saadiqとしては大きな方向転換ですから、そのアルバム発表前のライブを見れたことは、貴重な体験だったんだと思います。

サオリさんに感謝です。

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