2015年8月18日火曜日

ニューオリンズ・町と音楽の関係


※マット・ぺラインの1stソロ・アルバム。
近年ニューオリンズで作られた中で、一番好きな作品の一つです。



ニューオリンズは、音楽の町です。
そして、その音楽は非常に独特です。
港町ということもあり、色んな国や人種の音楽が混じりあっていると言われています。

日本でCDなどを聞いているだけでも、その独特さは十分に伝わってきます。
僕も日本にいる間、数え切れないほどの音源を聞き、様々な資料を読み漁っていました。
そうしてニューオリンズ音楽の雑多な要素を紐解いていくのは、とても魅力的な作業です。
その上で何度か現地に旅行もして、渡米したときには、すでにニューオリンズ音楽について自分なりの理解と確信を持っていました。
そして実際に伝統を背負った現地の年配ミュージシャン達と交流することで、確信は深まりました。

しかし、僕が理解したと思っていたのは、あくまでも音楽面での特徴に過ぎません。
渡米して初めて分かったことがあります。
それは、ニューオリンズ音楽は、「音楽」だけで考えても理解できない、ということです。


そもそも、いま町の音楽を支えているミュージシャンの大半は、ニューオリンズ音楽の伝統については詳しくありません。

理由のひとつは、仕事があるから、というだけで、何も知らない若いミュージシャンが移り住んでくるからです。

ニューオリンズは、音楽で生計を立てることが可能な町です。
それも、テレビへの曲提供やスタジオ仕事ではなくて、ライブ演奏で。
小さなバーからレストラン、ホテルまで、ライブ演奏を行う店は山ほどあり、チップで十分に稼げます。
それ以外にも、様々な企業や団体の集まり等で演奏する仕事がたくさんあり、そういったものはギャラもいい。
結婚式や、ちょっとした身内のパーティでもバンドが呼ばれて、そうしたものでも1人当たりだいたい200ドル以上はもらえます。
フェスティバル・シーズンは、さらに倍以上稼げます。
これは僕の経験からなので、ベテランや名前のあるミュージシャンはもっと多くもらっていると思います。

なので最近では、ニューヨークやボストンのジャズ学校を出た人たちが、仕事を求めてニューオリンズに移り住んできます。

彼らは、ニューオリンズ音楽については何も知りません。
ただニューヨークでは仕事がなく、流れてきただけです。
引っ越してきてから、仕事にありつくために、他のミュージシャンのライブに顔を出したり譜面を集めたりして曲を覚えます。

ただ、それはあくまでも仕事のためです。
ニューオリンズの音楽に興味を持って積極的にCDを買うようなことはない。
家で聞くのは、それまで聞いてきたのと同じコンテンポラリー・ジャズです。
そのため、ニューオリンズに定住しても、過去の伝統については無知なままなのです。


そして驚くことに、地元で育ったのに伝統を知らない、というミュージシャンも多い。

普通に生活しているだけでは、過去の音楽に触れることはないからです。
町で流れる音楽は観光客向けのものが多いし、一般向けのラジオやテレビからは、もちろん 流行の音楽が聞こえてくるわけです。
音楽が好きで自分でCDを買ったり、そうしたミュージシャンのいる場所に出向かなければ、なかなか伝統を意識する機会はありません。

一度、地元出身の若いミュージシャンと口論になったことがあります。

Avalonという曲があります。
元々はクラシックの曲だったそうですが、ベニー・グッドマンが演奏し、スイング・ジャズの定番曲になりました。
彼は、Avalonはニューオリンズ・ジャズの代表曲だと言います。
なぜなら町でたくさん演奏されてるから、と。
確かに、有名曲で盛り上がるので、観光客が来るお店ではよく演奏されます。
でも、けっして昔からニューオリンズで演奏されてきた曲ではない。
それは過去の音源を聞けばわかるし、年配のミュージシャンや、伝統的なバンドはほとんどこの曲を演奏しません。
僕が、Avalonはスイング・ジャズで演奏される曲でしょ、といくら言っても、お前はこの町で育ったわけじゃないから知らないんだ、と一蹴されてしまい、話になりませんでした。

もう一つ、印象深い話があります。
カーミット・ラフィンというニューオリンズの人気トランペッターがいます。
あるモダン・ジャズのピアニストが、伝統的なニューオリンズ音楽を勉強したいんだけど何を聴いたらいいか、と質問すると、カーミットは、ラジオを聴けばいいよ!と答えたそうです。
カーミットの勧めたのは、地元の現在進行形の音楽をジャンル問わず流すラジオ局で、それを聞いても、「ニューオリンズ音楽」について理解が深まるものではありません。
伝統を大事にするミュージシャンの間では、カーミットはニューオリンズ音楽を知らない、とされていて、これはそのことを象徴するエピソードとして聞かされたのですが、たぶん本当でしょう。
僕も、カーミットの音楽からは、ニューオリンズの伝統的な部分は感じません。


では、カーミット・ラフィンの音楽はニューオリンズ的ではないのか、と言うと、そんなことはない。
確かに、過去の音楽へのリスペクトは感じられないし、音楽的な特徴から考えてもニューオリンズの要素は多くありません。
でも、それでもやっぱり「ニューオリンズ」の匂いがするんです。

それは、微妙なノリや雰囲気、といった、抽象的な部分からきていると思います。
現地で普通のジャズやロックをやっているミュージシャンも多いですが、彼らの場合もそうです。
音楽的にはニューオリンズの要素はゼロだとしても、どこか「ニューオリンズ」ぽい。
これについては、音源を聞くだけでもある程度は分かるでしょうが、どうしてそうなのかは、現地に行ってみないとなかなか理解できないと思います。

逆に、住めば分かります。
ニューオリンズに住んでいると、次第に自分が町に同化していくような感覚があるんです。
それは、音楽とは関係ない、町の持つオーラのようなものです。
そして、それが自分に染み込んでいくことで、演奏から「ニューオリンズ」が聞こえてくるんだと思います。

これは、僕自身が実際に感じたことです。
町並み、空気感、人々の暮らしぶり。
もう、雰囲気としか言えないのですけれど、その雰囲気に自分の音楽が影響されていく。
聴いてる人、踊ってる人はもちろん、町中の人々が、音楽に混じってくるんです。
ニューオリンズを代表するクラリネット奏者マイケル・ホワイトは、「町の人々の話し方、歩き方、踊り方、そういうものが自分の演奏を形作っている」と言います。
そう聞いたときには、ちょっと大袈裟に思いましたが、長く住むうちに、自分でもその通りだと感じるようになりました。

ニューオリンズ時代、バンドでニューヨークに演奏に行きました。
2週間くらい、色んな場所で演奏しました。
同じメンバー、同じ音楽です。
でも、地元でやるのとは違う。
「音楽を演奏している」感覚になるんです。
これが、ニューオリンズで演奏していると、聞いている人々の反応や、店や通りの雰囲気が相まって、単純に「音楽を演奏している」のではない感じがします。
町に包まれて、人々と一緒に音楽を作っているかのようです。

ニューオリンズでは、ライフスタイルが音楽にも反映されます。
東京っぽい、とか、ニューヨークっぽい、とも言いますが、もっと深い所で町の空気が音楽に染み込んでいく気がします。
音楽は町の一部であって、それだけ取り出して考えることはできないんです。



音楽をあまり家で聞かなくても、ニューオリンズ音楽について何一つ知らなくても、現地に住んで演奏していれば自然と独特のノリが身についてきます。
それは、カーミット・ラフィンや若いミュージシャン達が証明しています。
逆に言えば、ニューオリンズ音楽を深く知りたいのであれば、現地に長期滞在するしかないと思います。
町を知らないと、分からないことがあるんです。

とは言え、長期滞在というのは現実的には簡単ではないと思います。
短期間の滞在でできるだけニューオリンズ音楽を理解したいのなら、ひたすらライブをハシゴすることはお勧めしません。
ニューオリンズ音楽の秘密は、音楽以外の部分にあるからです。
ライブは程ほどにして、昼間も行動してください。
ミシシッピ川沿いでのんびりして、人と喋ってください。
歩いて、ニューオリンズの空気を吸い込んでください。
町が、音楽なんです。

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