2014年10月14日火曜日

Bulletproof Musician:不安をプラスに変える方法 - 「センタリング」

Bulletproof Musician という英語のサイトの記事を、ランダムに翻訳するシリーズです。ミュージシャンのメンタル面に関する内容を扱っています。音楽をやっていない方でも、自己管理やマインドの問題に興味があるなら、是非ご一読下さい。


How to Make Performance Anxiety an Asset Instead of a Liability
http://www.bulletproofmusician.com/how-to-make-performance-anxiety-an-asset-instead-of-a-liability/


”ナーバス” という言葉には、マイナスのイメージがあります。
実際、世の中にはナーバスな状態から脱するためのアドバイスが溢れています。
私自身、本番が近づくと不安が募ってしまい、とにかく手当り次第の解消法を試した経験があります。
バナナを食べ、カモミール・ティーを飲みました。
ステージから、お客が下着姿でいる様を想像しました。
不安から睡眠不足になり、さらに練習量を増やし、 サプリメントを取りました。
結果は気にするなと、何度も自分に言い聞かせました。 
しかし、どうやっても不安は無くならず、演奏も停滞したままだったのです。

その後、私はジュリアード音楽院の博士課程に進みました。
そこで専攻したパフォーマンス心理学の授業で、ようやく気付いたのです。
不安によって分泌されるアドレナリンを効果的に利用することができれば、不安そのものは問題ではなくなります。 
不安を悪だと決めつけ、リラックスしようと努力しても、効果はないのです。

では、実際に不安をプラスの要素に変えるにはどうすればいいでしょうか。
そのためには、まずは緊張下での心理状態について理解する必要があります。


左脳 vs 右脳

脳は、主に左半球と右半球という二つの領域から成ると考えられます。
もちろん、我々の脳は非常に複雑であり、左右別々に分けて扱うのは単純に過ぎまるでしょう。
しかし、演奏の際の心理状態を理解するためには、この分類はとても有効なのです。

左脳の働きは、言語、数字、論理、分析、批評、規則、細部、計画、決断、などに関係します。
対照的に、右脳が関係するのは、音、映像、図形、筋肉や神経へのインプット、感情、大局、アイディア、 創造力などです。

そうすると、効率的な練習には左脳の働きが、芸術的な演奏をするには右脳の働きが重要なことは明らかでしょう。
しかし残念ながら、多くの場合は正反対のことが起こっています。
どうしてか、練習室では左能が働かず、集中力を欠いてしまうのです。
特定のフレーズをひたすら繰り返し練習しているときなど、ボーっとしてしまう経験があるはずです。
そして、ステージに上がった途端に左脳が働き出し、分析や批評を始めます。
その結果、技術面の細部ばかり気になるようになり萎縮し、実力が発揮できずに終わってしまうのです。

“分析麻痺”という言葉をご存知でしょうか? 
細部を意識する余り、全ての動作が誰かに監視されていると思い込んでしまうのです。
これと反対の状態は、 “flow” あるいは “the zone” と呼ばれます。
全てのピースがはまり、リラックスして自由に演奏できる状態です。

“flow” “the zone"の状態に入るには、左脳から右脳への移行が必要となります。
そのためには、センタリング(Centering)と呼ばれる方法が有効です。


センタリング

センタリングは、著名な心理学者 Robert Nideffer博士により1970年代に確立され、
スポーツ心理学者ドン・グリーン博士によって実際にオリンピック選手達に用いられました。
現在のスポーツ心理学においては、試合前のウォーミングアップとして不可欠とされています。
不安をプラスに変え、 集中力をコントロールするために、非常に有効なのです。
一度センタリングを身につけてしまえば、いつでも思い通りに演奏を高みへ持っていくことができるようになるでしょう。

センタリングを行うには、7つの段階があります。
各ステップにおいて、左脳の司る不安・疑い・自己批判から離れ、右脳の司る平静・落ち着き・集中の状態へと次第に意識を移していきます。


Step 1: 集中点を定める

離れた場所に、「集中点」を一つ、決めてください。
譜面台でも、目の前の床でも、ホールの後方の座席でも、目線より下であればどこでも構いません。
「点」を意識することで、意識が散ることを抑え、左脳を無駄に使う誘惑を避けうるのです。


Step 2: 目的を明確にする

目標を設定します。
ステージに上がってどう振舞うか、どう演奏するか、観客に何を伝えるか。
それらを、はっきりと正確にイメージするのです。

そのためには、断定的で強い言葉を使います。
例えば、 "感情を込めて" "メリハリのある演奏をする"という風に。
"いい演奏をしたい"というだけでは効果がありません。

 “〜しない"という否定形は使わないように注意してください。
ネガティヴなイメージが浮かび、疑念や怖れを誘発します。
例えば、“高音を外さない"と言うと、まずは高音を外した時のことがイメージされるはずです。 
しかし、”高音を豊かに響かせる”と言えば、同じ内容でも浮かぶイメージは全く違ってきます。
望むイメージに集中できる言葉を選ぶべきです。


Step 3: 意識して呼吸をする

緊張を解くには、横隔膜を使った腹式呼吸が有効です。
人間の身体は、緊張すると、危険に即座に反応できるようにと、浅く速い胸式呼吸に戻ってしまいます。
その状態から、意識して複式呼吸をすることで、緊張を解いていきます。
複式呼吸は、戦闘状態を解除する「副交感神経系反応(The Paparasympathetic Nervous System Response)」のスイッチでもあるのです。


Step 4: 筋肉の緊張を解消する

ストレスを感じると、筋肉は緊張します。
思考がネガティブになるほど、筋肉は硬くなり動きが重くなっていくのです。
しかも多くの場合、その筋肉は、まさに演奏に必要な箇所なのです。

ゆっくり深く呼吸しながら、頭からつま先まで全身の筋肉に順番に意識を巡らせてください。
息を吐くと同時に、一箇所づつ緊張をほぐしていきます。
慣れれば、演奏中でも筋肉の緊張が意識でき、それを和らげることが可能になるでしょう。

※著者のセミナー(?)の映像がリンクされています。
https://www.youtube.com/watch?v=qRy5XrpuVcQ
参加者2人に続いて著者自身が、筋肉を瞬時に弛緩させてみせます。英語ですが、映像だけでも判ると思います。


Step 5: 身体の重心を見つける

マーシャルアーツに「気(ki / chi)」という概念があります。
東洋哲学では「生体エネルギー」「内面エネルギー」などと説明されるものです。
「気」の集まる場所は内部にあり、それは必然的に身体の重心に位置します。
マーシャルアーツの達人の動きを見れば一目瞭然です。
どんな体勢でも常に重心がブレず、バランスを保った優雅さが備わっています。
これは、一流の運動選手やダンサーにも言えることです。
身体の重心を意識することで、心も穏やかな状態になり、左脳の活動を抑えることにも繋がります。


Step 6: 「引き金」を利用する

緊張状態においては、細部に意識が集中しがちです。
練習の時ならまだしも、ステージでは演奏に支障が出てしまいます。
これを解消するために、右脳を動かす「引き金」を利用します。
「引き金」とは、理想の音や感覚をイメージするきっかけとなるものです。

まずは、引き金となる言葉を考え、実際に使ってみることです。
例えば、クリアな音色、正確な音程など、自分が望むイメージを想起させる言葉を選びます。
流れる弓さばき・スムーズな運指・流麗な・力強い・静かに・リラックス、といった言葉です。
言葉自体は重要ではありません。
そこから引き出されるイメージが自分の理想にどれだけ近いが、ポイントです。

このとき、2つ以上の言葉を同時に使わないよう気をつけてください。
それぞれの言葉について、自分のイメージに合うかどうか、聴いて、感じて、確かめる作業を、ひとつひとつ行きます。


Step 7: エネルギーを方向づける

ここまでで、心を落ち着け集中させ、能力を引き出すための準備はできました。
仕上げとして、自分の中の精神エネルギー全てを、演奏に活用する作業を行います。

まず、自分の内部にある精神エネルギーに意識を集中させ、身体の中心に集めます。
私の場合、自分のエネルギーを意識するために、プラズマ・ライトのようなものをイメージします。


次に、集めたエネルギーを体の上方に動かしていきます。
胸から首、そして頭へと移動させてください。
そして、額あるいは目から、光線のようにして、Step1で定めた集中点に向けて放出します。
この光線を導線として考え、Step2で明確化したイメージが聞き手に届くように、音に込めてください。

胡散臭いと思う方もいるかもしれません。
しかし、精神エネルギーは確実に存在します。
誰かと話していて、相手が興奮し詰め寄ってこられたことはありませんか?
至近距離から強烈な視線を向けられると、居心地が悪く、まるで頭の中を覗かれるような感覚になるはずです。
これが、精神エネルギーの力です。

ストレスを感じた時には、休憩を取ってアドレナリンをリセットするのではなく、逆にそのエネルギー有効活用するべきなのです。
精神エネルギーを音楽に乗せることで、一段階上の演奏ができるようになるはずです。


センタリングの練習

上記の手順でセンタリングを行うのは、最初のうちは時間がかかるでしょう。
しかし、一日に10~15分も練習すれば、1〜2週間で違いが実感でき、5分程度でセンタリングが可能となるはずです。
人によっては、数日で変化を感じる場合もあります。
何でもそうですが、継続と忍耐が必要なのです。

ここで説明した内容の大部分は、子供に対しても有効です。
その場合、もちろんステージでの緊張とは別の話になります。
不安を軽減するというよりも、集中力と目的意識を身につける訓練になるのです。

センタリングは、ステージ上のみではなく、練習の際にも大いに役立ちます。
(集中力を欠いた繰り返し練習によって間違った癖づけをする代わりに)目の前の課題に意識を集中できるからです。

センタリングを取り入れることで、音楽に対するアプローチは確実に変わります。
私自身がそうでしたし、この方法を学んだ多くの人間が同じように変化を体験しています。


昔から言うように、"波は止められないが、波に乗ることは学べる"のです。



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