2014年10月8日水曜日

僕の考えるニューオリンズ・クラリネット

ポピュラー音楽において、クラリネットはマイナーな楽器です。
過去にはジャズの花形楽器だった時代もありましたが、そんなのウソみたい。
今では、名前は知ってるけどどんな楽器だっけ?っていう人もいるくらいです。
そんな中で、ニューオリンズだけは例外です。
クラリネットで生計が立てられて、実際に何人もがそうして家族を養っている。
現在、これだけクラリネット人口の多い町はなかなかないでしょう。

そして、ニューオリンズのクラリネット・スタイルは、独特です。
僕は、そのニューオリンズの独特の演奏スタイルに惹かれ、研究し、現地でも4年間暮らしました。
今ではニューオリンズ音楽をやる機会は多くありませんが、どんな人とどんな音楽を演奏しても、僕の演奏からニューオリンズ・テイストが失われることはないと思っています。
しかし、あらてめてニューオリンズ・クラリネットとは何かと言われると、難しい。


僕は大学で、現地で最も多忙なジャズ・クラリネット奏者、Tom Fischer に教わりました。
レッスン中に、ニューオリンズ・クラリネットとは何か、と話したことがあります。
彼は、特にニューオリンズのスタイルについて意識していないと言います。
実際、トムの演奏はいわゆる「ニューオリンズ」的なスタイルではありません。
特に個性的というわけではない。
一般的なスイング・ジャズの語法でどんなジャンルにも対応できる、というタイプです。
加えて現地の出身ではないことで、彼をニューオリンズ・クラリネットと認めないミュージシャンもいると言っていました。
現地のトップ・プレイヤーで、出身は違うけれども30年以上もニューオリンズに住んでいるというのに。


Orange Kellin というクラリネット奏者がいます。
ヨーロッパ出身で、ニューオリンズ・ジャズに憧れて移住しましたが、その後ずっとニューヨークで暮らし、最近またニューオリンズに戻ってきた人です。
N.Y.が長かったので、スイング・ジャズを演奏することが多かったはずで、実際、音づかいはスイング寄りです。
それでもトムは、彼のスタイルは「 ニューオリンズ」に聞こえると言います。


違いは何なのか。
トムもオレンジも、フレーズは洗練されてるし何でも演奏してしまう。
二人のスタイルの違いを具体的に指摘するのは難しい。
あえて指摘するなら、常に完璧なトムの演奏に対して、オレンジの演奏からはややルーズな印象を受けます。

そう考えてみると、「ニューオリンズ」を強く感じるクラリネット奏者には、確かに「ルーズ」な部分があります。
上手い・下手といった、技術的な話ではありません。
ジャズの場合、一般的には、スケールや定型フレーズを組み合わせて演奏します。
その結果、すべての音符が綺麗に整った、なめらかな演奏になります。
対してニューオリンズのクラ吹きは、ワン&オンリーのフレーズの人が多い。
フレーズの途中で頻繁に伸び縮みしたり、着地点がズレたりします。
なので、「ルーズ」に聞こえます。

音色も、違います。
トムは、クラシックの曲でも通用するような、クラリネットらしい音色です。
実際、ごくたまにですがクラシックも演奏しています。
オレンジの音色は、変わってます。
息がもれてるような、こもったような音がします。
クラシックなど均一性を求められる音楽では、敬遠されるでしょう。

もちろん、クラシックやスイング/モダン・ジャズの世界でも音色の違いはあります。
しかし、それはクラリネットをやっていない人間にはおそらく判別不能なレベルの微妙な差異に過ぎません。
ニューオリンズのプレイヤー達の音色の違いの幅は、もっとずっと広い。
どこの誰でもわかるくらい個性的な音色だったりします。


音色の問題は難しいですが、「ルーズ」さというのは、解りやすい特徴でしょう。
だからといって、タイミングをずらしてルーズに吹いたらニューオリンズに聞こえるわけじゃない。
フレーズについても、オレンジだって、普通にジャズのフレーズを吹きます。
個性的なフレージングやルーズさは、確かにニューオリンズ・クラリネットの特徴ではありますが、それだけでは「ニューオリンズ」には聞こえないんです。
すると結局、トムとオレンジを分けるのは何なのか。
なぜ、トムと同じフレーズを吹いても、オレンジの演奏は「ルーズ」に聞こえるのか。


「心象風景」だと思います。
これはもう、どんな音楽を好きで聴いてきたか、といった、演奏に対する気持ちの問題であり、分析は不可能です。
楽器を練習する上で、頭の中にイメージを持ってると次第にその音色に近づいていく、と言います。
それと同じようなことかと思います。

だから、いくら過去のプレイヤーの演奏をコピーして忠実に吹いても、ニューオリンズの感じは出ません。
フレーズよりも、演奏してる時にどんな心象風景が浮かんでいるか。
コードやスケールのことを考えてるのか、それとも誰かの顔や風景を思い浮かべてるのか。

僕自身の経験からしても、実際こういうことで、だいぶ音が違ってきます。
人や街や音や風景に包まれたようなイメージを持てると、いい演奏になることが多いです。
自分がイメージの一部になって溶けていくような感覚、でしょうか。
演奏中に譜面を見てたりして頭を使うと、面白い演奏にはなりません。


オレンジが、演奏中に何を思ってるのかはわかりません。
でも、もともとニューオリンズ・ジャズへの情熱から移住してきたくらいだから、きっと過去の音楽への愛情が、吹いてるときにもあるんじゃないでしょうか。

ちなみにトムは、何も考えてません。
単純にその場の音に反応してるだけです。
良い悪いではなく、そういうタイプなんです。
天才型ですから。


けっきょく、ニューオリンズ的、というのは、エッセンスの問題です。
どれだけ「ニューオリンズ」に触れて心が動いた経験があるか。
その経験に基づいた心象風景を演奏中にどれだけ持てるか。
だから、ニューオリンズ・クラリネットを言葉で定義するのは難しいんです。

ニューオリンズのクラ吹きの、フレーズのオリジナリティや音色の多様さは、「型」よりも心象風景やイメージ優先で楽器に取り組んだ結果なんだと思います。
心象風景というのは個人によって違うものだから、出てくる音もそれぞれ違う、ということなんでしょう。
なので、心に「ニューオリンズ」のイメージがあるなら、どんなフレーズを吹いても「ぽく」聞こえます。
逆に、スタイル面での特徴といった、「型」から入ったプレイヤーにはあまり「ぽさ」を感じません。


ニューオリンズ・クラリネトに興味があるなら、コピーはやめましょう。
それよりも、過去の録音を山ほど聴いて没入して、雰囲気をつかみましょう。
そして、お金貯めて現地へ行きましょう。
ある程度の期間滞在すれば、音楽 面だけではなく、町の空気が体に染み込んでくるはずです。
もしそれでも分からなければ、残念ながら向いてないということだと思います。


僕も、心象風景を持っているつもりです。
色々な音楽をやってますが、僕はニューオリンズ・スタイルのクラリネット奏者です。
ニューオリンズ・ジャズのライブも、たまにやります。
聞きに来てください。
そしてニューオリンズについて語りましょう。
ちなみに、トムとオレンジを取り上げたのに、深い考えはありません。
思いつきです。
でも、2人ともモダン寄りのこともやる音数の多いプレイヤーだし、いい比較だったかと思います。



オレンジ・ケリン
かっこいいですね。


トム・フィッシャー
何も考えてないですね。




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