2014年10月22日水曜日

Bulletproof Musician:1日に何時間練習するべきか

Bulletproof Musician という英語のサイトの記事を、ランダムに翻訳するシリーズです。ミュージシャンのメンタル面に関する内容を扱っています。音楽をやっていない方でも、自己管理やマインドの問題に興味があるなら、是非ご一読下さい。


How Many Hours a Day Should You Practice?


上達するためには、どれだけ練習すればいいのでしょうか。
2時間、4時間、8時間と、様々な意見があります。
さすがに12時間やるべきだ、と考えるミュージシャンは少ないでしょう。
果たして、理想的な練習時間というものは存在するのでしょうか?


演奏家の意見

20世紀の偉大な演奏家たちの意見をみてみましょう。
ピアニストのルービンシュタインは、1日に4時間以上練習するべきではない、と言います。
それ以上練習しているとしたら、練習方法が間違っている、と。

ヴァイオリニストのレオポルド・アウアーも同じ考えです。
彼は、弟子のナタン・ミルシテインの質問に対して、”丸1日も費やして上達しないのは、小手先だけで練習してるからだ。考えながら練習すれば1時間半で十分なはずだ。”と答えました。

ヴァイオリニストのハイフェッツは、度を超えた練習は ”練習しないのと同じくらい良くない” と言います。
彼自身、1日の練習は3時間程度にとどめ、日曜は休んでいました。

個人的にも、このやり方に賛成です。
私も学生時代、一週間のうち丸一日は、楽器に触れない時間を設けていました。


心理学者の意見

この分野の世界的な権威は、心理学者のアンダース・エリクソン博士でしょう。
有名な ”10年の法則、” ”10,000時間の法則” は、彼の研究に基づいています。
これは、特定の分野のエキスパートになるためには、10年もしくは10,000時間の適切な訓練が必要だというものです。
ミュージシャンの場合には、世界の一流レベルに到達するには、およそ25年が必要だとされています。
重要なのは、練習の内容ではなく総練習時間(もちろん、何時間必要かについては意見が別れます) が問題とされていることです。
どんな練習方法であっても、近道はないのです。


機械的な練習

試しに1時間、誰かの練習をこっそり聞いてみてください。
あるいは、自分の練習を録音して聞き直すのもいいでしょう。

おそらく、機械的に練習していることに気づくはずです。
単純な反復練習(”このフレーズを10回繰り返す”、”この曲を30分練習する” など)や、流れ作業(つまずいたら演奏を止めて、その箇所を反復し、また曲に戻り~ということをひたすら繰り返す)を行っている場合がほとんどでしょう。

こうした練習には、大きな問題点が3つあります。

1. 時間が無駄になる
機械的な練習をいくら行っても、何も身につきません。
同じ曲を何時間も、何日も、何週間も練習して、それでも大して上達したように思えないのは、このためです。
それどころか、知らないうちに悪癖がつき、後で苦しむことになります。
結局は、悪癖を直すための膨大な練習時間が、将来に向けて蓄積されていくだけなのです。
知人のサックス教師は、“練習の際は、完璧な演奏を目指すのではなく、正しい癖付けに集中するべきだ” というのが口癖でした。

2. 自信がなくなる
こうした練習を続けるうちに、自信が失われていきます。
どうやっても上達しない、と思い込んでしまうからです。
難しいフレーズに次々に取り組むことでは、自信には繋がりません。 
真に自信を感じることができるのは、
(a) いつでも完璧に演奏でき、
(b) それが偶然ではなく、再現可能であると確信している場合です。
(c) 何故ならそのためには、上手くいく/失敗する原因を理解している
必要があるからです。
つまり、どうすれば正確に演奏できるか、技術的な面から理解することが重要なのです。

何でも最初から上手く演奏できるはずがありません。
だからこそ、正しい奏法が癖づくまで、繰り返し練習するのです 。
それは、芝生を育てるようなものです。
雑草に延々と立ち向かうよりも、きれいな芝を育てることに時間を使えば、やがて芝生が雑草を覆いつくしてくれるでしょう。

もうひとつ、大きな問題があります。 
練習と実践での集中力に、差がありすぎることです。
集中して練習できていなければ、ステージでも集中することはできません。
以前書いたように(『不安をプラスに変える方法』)、ステージ上では左脳が働き、分析的な思考になる傾向があります。
機械的に練習をしていては、自分の演奏を頭で理解し把握することができません。
その状態でステージに上がり、細部を意識しようとしても、脳が戸惑ってしまうのです。

3. 面倒で退屈である
機械的な練習は、楽しいものではありません。
テクニックは、練習時間に比例すると考えられています。
だからと言って、◯回、◯時間と単位を決めていくら練習しても、明確な目標がなければ意味がありません。
例えば、◯◯のように聞こえるまで練習する、という風に、具体的な目標を持つことが重要です。
さもなくば、練習は苦行に変わるでしょう。

練習時間は、最終的には問題ではありません。
望む結果を得るにはどうすればいいのかを理解し、いつでも再現できれば良いのです。


適切な練習

では、機械的ではない練習とは何でしょうか?
それは、体系的で高度に考え抜かれたものです。
科学的とも言ってもいいでしょう。
ぼんやりと上手くいったりいかなかったりを繰り返すのではありません。
ゴールとそこに至る道筋を明確にした上で、能動的に、そして思慮深く、実験を積み重ねていく作業です。
ヴァイオリン奏者 Paul Kantor は、練習室はラボのようであるべきだ、と言いました。
様々なアイディアを自由に並べてみて、どの素材の組合せが適切か、実験を繰り返すのです。

例えば反復練習の際に、数小節単位ではなく、1音だけを取り出します。
そして、イメージ通りに“響く”かどうかに集中ながら、ゆっくりと繰り返してみてください。

自分の演奏を客観的に観察し、改善点を探す作業が重要です。
(そのためには、録音してみるのがいいでしょう。 )
演奏中に何が起こっているか、そしてその原因が何なのか、集中して聞いてください。
一音だけとってみても、音程、音量、ニュアンス、音の長さ等、観察すべき点はたくさんあります。

仮に、音程が高く、音を伸ばしすぎたとしたら、それぞれの要素ついて細かく検証します。
ほんの少し音程が上ずっただけなのか、かなり高かったのか。
狙った音価よりどのくらい長かったのか。

その次に、原因を考えます。
音が上ずったのは何故か。
そして、改善するには、どうすれば良いのか。

録音があれば、その演奏を聴き直し、分析してみてください。
自分のイメージしていた演奏とは、意外にずれているのではないでしょうか。

重要なのは、何故そうなったのかを分析し、どうすれば二度と起こらなくなるか、と考えることです。
残念なことに、その作業に時間を割かないミュージシャンが、実は多いのです。


1日に何時間練習するべきか

「適切な」練習は、とても疲れます。
常に全神経を集中させるので、非常にエネルギーを使うのです。
1時間以上続けて練習すれば、集中力も下がり、効率は落ちます。
たとえ集中力のある人間でも、1日に4時間以上練習するのは難しいでしょう。
ある研究では、1日の練習時間を1~8時間まで比較した結果、4時間を越えるとほとんど進歩は見られませんでした。
上達のスピードは、2時間を越えると次第に遅くなります。 
これを踏まえ、集中力を管理することが、重要だと言えるでしょう。


効果的な練習のための5つのポイント

1. 練習時間
一回の練習を、集中力を保てる時間内に限定します。
若い内は10-20分くらい、年長の場合であれば45-60分くらいが適当でしょう。

2.時間帯
自分が集中できる時間帯を把握し、その時に練習するように心がけましょう。
朝の場合もあれば、昼食の直前かもしれません。
体が生産的な状態にあれば、集中して考えることができるはずです。

3. 目標
ノートを用意してください。
目標を書き、練習で学んだことを記録します。
そうして目指す方向を常に明確にすることで、集中力が高まるはずです。
出したい音や取り組むべきフレーズ、特定のアーティキュレーションやピッチなど、自分が何をマスターしたいのか、きちんと計画しておくべきなのです。

とにかく、何か気づいたことがあれば書き留めましょう。
どんな発見も、書き留めないと忘れてしまいます。

4. 効率
上手くいかない箇所があれば、単純に練習が必要です。
しかし、練習量を増やすよりも、やり方を工夫する方が良い場合もあります。

以前、パガニーニの24のカプリースを練習していた時のことです。
曲中の左手のピチカートが上手くいかず、イライラしてがむしゃらに練習し、その結果、指を痛め出血してしまいました。
そうなってみて初めて、他にもっと効率的な方法がないか、と考え始めたのです。

それまでの練習方法に固執しないよう自分に強引に言い聞かせ、その部分の練習自体をやめました。
そして、ほぼ1日かけて、解決策をいくつも考えてノートに書き留めました。
少しでも役に立ちそうなことは、とりあえず試してみる事にしたのです。
その甲斐あって、着実に効果の出る練習方法を見つけ出し、その成果は当時の先生にも驚かれたほどでした。

5. 問題解決のためのステップ
一般的に広く行われている、6段階の問題解決法が参考になります。

1.目的を明確にする(音/フレーズのイメージを固める)
2.分析する (自分の音の原因を探る)
3.解決策を列挙する (練習方法を考える)
4.実践し、効果を比較する (最良の練習方法を検討する)
5.解決策を選ぶ (練習方法を決定する)
6.成果を確認する (上達の度合いを常に見直す)

あるいは、Daniel Coyle著 "The Talent Code" で紹介されている、4段階の解決法だけでも良いでしょう。

1.目標を設定する
2.目標に向けて行動する
3.目標までの距離を認識する
4.ステップ1に戻る

これらの方法は、技術を磨くにも、アイディアを模索するためにも有効です。
どんなやり方であれ、頭を整理し、体系的・能動的な思考を行うことが重要なのです。
その結果、目標が明確になり、無駄な練習時間が削減されるでしょう。

誰だって、一日中ずっと練習室に居たいはずはありません。

やるべきことを済ませて、外に出ましょう!

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