映画の感想「鑑定士と顔のない依頼人」

「鑑定士と顔のない依頼人」を観ました。DVDで。

1年近く前、相方と何か映画を観たいね、って新宿に行ったときに公開していて、観ようとしたらなんと満席で入れなかったんですよね。
(ちなみにその時は代わりに「ブランカ・ニエベス」を観ました。すごく良かった!)

で、ようやく観た、と。
感想としては、とても面白かったです。
だけど、傑作とかは全く思いません。

この映画、いい評判もけっこう聞こえてきました。
多くの感想は、ストーリーに関するものでした。
宣伝文句でも、結末を知ってから観ると全く違う映画になる、と言う。そして、公開時には、なんと2度目に観ると割引きになる、というサービスをやってました。
ストーリーは概要しか知らなかったけど、監督はトルナトーレだし、ポスターもかつこいいし、期待しました。

で、噂の結末ですが、僕としては特に普通に思いました。
それどころか、ストーリーについては、そんなに良いと思いませんでした。
別に驚かないし、無理あるし、背景の掘り下げもないし。

でも、すごく面白かった。
それは、もう単純に、映画を観る快感です。
まず、映像がいい。
照明から構図から、美しい。
演出も、すごく均整が取れていて、間とかも全部いい。
そして役者がいい。
主演のジェフリー・ラッシュが、とにかくいいです。
喋ってないシーンが、特にいい。ちょっとした表情や仕草が絶品です。
エンニオ・モリコーネの音楽も、王道だけどベタではなくて良かったです。

映画を観る快感を味わえる、良質な作品だと思います。
はっきり言って、ストーリーはどうでもいいです。
なんでみんなストーリーのことばっかり話題にしてるんだろう。

でも、やっぱりストーリー、惜しいかな。
所々に、含蓄のあるセリフが挿入されたりするんですよ。
贋作と本物についてとか、愛とは、とか。
そういう内面的な見方をすると、孤独な男が初めて見つけた幻の恋、というジャンルの映画です。
そういう部分を描きたいのは分かるんですが、ならもっと掘り下げて欲しかった。
それがあれば、傑作になったかもしれない。

ちなみに、同じジャンルで僕が大好きなのは、パトリス・ルコントの「仕立て屋の恋」です。
あれも話はミステリーだけど、男の幻の恋の切なさ側から切り取っていて、打ちのめされます。
傑作です。

どっちも映画として良質だし、観てて気持ちいい。
でも、「鑑定士」の方は、観終わって何も残りませんでした。
ミステリーとしてストーリーで魅せるエンタメ映画なのか、人物を描く舞台設定としてのミステリーなのか。
どっちつかずの映画でした。
いい映画だけに、残念でした。


映画も、音楽も、何でもそうですが、その表現形態でしかできないことってあると思うんですよね。
ストーリーとかメッセージとかは、別の話。
ストーリーが素晴らしいだけなら、別に映画でも小説でもどっちでもいいわけで。
映画でしか得られない快感、映画でしか伝えられないもの、っていうのが、あるはずです。

音楽も、例えばボブ・ディラン等のファンに多いですが、詩がいいと言う。
僕に言わせれば、いや、歌詞カードにある訳詩を読んで感動してるんじゃん、ということになります。
文字で読んでも感動しないものが、歌われて初めて感動するということがあって、それでなくては、歌である意味がないと思うんです。
だから、フォーク・ソングは、音としては好きだし、内容だっていいものはありますが、歌詞も含めた音楽全体として感動したことは少ないです。

ボブ・ディラン好きですよ。詩もいいと思いますよ。
でも、そのセンテンスがどういう響き方でどういうアクセントで歌として成立してるかは、僕の英語力ではわかりません。

まあ、そう考えると、洋楽は分からないっていうことになってしまうんですが。
そう、けっきょく深い所までは分からないと思ってます。
だから、シンプルな歌が好きなのかな。
スタンド・バイ・ミーとかね。

僕自身が歌う人だったら、もっと歌詞のことで悩んでたかも。
管楽器奏者でよかった。

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