『ファストファッション』を読んだ



『ファストファッション』という本を読みました。

バングラデシュの衣料品工場が倒壊し1000人以上が死亡した事件もあったし、ファストファッションの搾取構造について全く知らなかったわけではありません。
でも、その悲惨な労働環境の原因を、我々が安い服を買うからだ、と結びつけるのも短絡的だろう、と思っていました。
最底辺の仕事がたまたまその国では縫製工場だった、というだけで、仮に工場がなければ別の仕事が同じ位置にくるだけじゃないのか、と。
その国の社会構造の問題だと思っていました。

服以外だって、我々の食べ物や家具や、なんでも元を辿っていけば、決して快適ではない労働の場に行き着くことがあるでしょう。
それを気にし出したら、身の回りから大量生産のものを遠ざけなきゃいけない。
けっきょく、少なくとも現代の東京では、見知らぬ誰かの血と汗に依存しないと生活できないわけです。

という考えから、ファストファッションの問題については、特に関心を持ってはいませんでした。
それが、年末にたまたまVICEのドキュメンタリー動画を見たんです。
カンボジアの縫製下請け工場に取材したもので、やはり映像だと訴えてくるものがありますね。
そこから興味が湧いてこの本の存在を知り、図書館で予約し、読みました。


何かを糾弾する本ではありませんでした。
ファストファッション信奉者だった著者が、疑問を持った点を次々と調査し、考えが変化していく過程を綴ったものです。
近年のファッション業界の様子、消費者の変化、ファストファッションの構造などについて、専門的にならずに書かれています。
例えば、
ファストファッションの利益率は、従来の販売方式の約2倍であること。
アメリカではファッションに著作権がないため、模倣を規制するのが難しいこと(フランスでは100年前からファッションに著作権が認められています)。
従来のブランドは、ファストファッションとの差別化で高級化し、1998~2010年の間に、高級婦人服の平均価格は2.5倍に上昇したこと。
などが、さらっと説明されます。

この本を読んで、「搾取に加担するのはやめよう!」とはならないでしょう。
それよりも、ファッションについての価値観を考えさせられる。
流行とは、貧困国から搾取し環境を破壊してまでも、自分にとって意味があるものなのか。
著者自身、流行を追うことから次第に「着る」という行為自体に意味を見出すようになっていきます。
服を着ることは、ただ体を覆うだけではなく、もっと心の中まで暖かくできるものだと、確かに思います。


僕の場合、実はそもそもファストファッションの店で買ったことがありません。
ようやく去年、初めてユニクロでヒートテックを1枚買ってみたきりです。
ステージ用の服を探すときにいくつかの店を回ったことはありますが、けっきょく買わなかったし。

昔からファッションが好きで、グッと来ない服は買いたくないんですよね。
もちろん、グッとくるような美しい服は安くありません。
当然なかなか買えないから、たくさん迷うしリサーチするし、手に入れたら大切にします。
だから、持ってる服はどこで買ったか全部覚えてるし、気に入ってずっと着続けています。

僕が服を長く着られてるのは、音楽の世界に進んだこともあると思います。
周りに服好きの友達がいないので、ファッションの流行に左右されずに済んだんですよね。
若い頃から自分のセンスで、比較的ベーシックなものを買っていたので、ダサくて着れなくなることがない
おかげで、20年前に買った服を今でも好きで着れているんだと思います。

その感覚からすると、ファストファッションの服がすぐダメになるという描写にまず驚きました。
Tシャツ、ジーンズ、下着以外で、着れなくなって処分した服なんて記憶にありませんからね。
そして、シーズン毎に買い換えたり、安いからと気軽に買ってそのまま放置したり、というエピソードも信じられない。
新しい服を買えば、それをどうやって着こなそうか考えるのがいつも楽しみです。
放置するなんて有り得ません。


ファストファッションの服を買わないのは、「値段」から得られる満足度が低いからです。
買ったときは嬉しいかもしれないけど、それはその時だけ。
でも、値段じゃなくて服そのものが気に入ったなら、毎回袖を通す度に笑顔になれます。
自分で価値があると思えるモノに囲まれたら気分がいい。
そして、気分のいい自分自身のことが好きになる。
もちろん、服装を人に褒められたら嬉しいけど、それだけじゃない。
ファッションは、自分を好きになる、自信を持つためのツールなんです。

モノを買うときは、まず価格は見ない。
気に入ったものがあれば、値札を見る。
安かったら買う。
高かったら悩む。
高すぎたら諦める。
というやり方をしています。


以前は、ファストファッションに対して特に否定的ではなかったし、機会があれば買ってもいいなとも思っていました。
しかし、この本を読み終え、様々なイビツな部分を知り、ファストファッションに対しては最早ネガティヴな印象しかありません。
気持ちの悪いストーリーが引っ付いた服を着ていても、ぜんぜん嬉しくない。
すぐダメになるなら、けっきょくコスパも悪いし。
今後、買うことはないでしょう。

服だけじゃなくて。
値札に惑わされず、そのモノ自体をしっかり見て、自分にとって価値があるか考えた方がいい。
それを身の回りのこと全てに徹底できたら、きっと、すごく楽しいだろうと思っています。


最後に、この本について一つだけ。
翻訳調の文章が、読みづらいです。
きっと原語ならスラスラ読めるはずなのに、訳文のせいでぎこちない流れでしか読めない。
原書の意味に忠実とか、原文に沿って、とか色々あるんだろうけど、読みづらいのはダメだと思う。
昔から翻訳本てそういうのが多い。
もっと読み手の感覚を考えてほしい。
翻訳業界って、進歩がなくて残念です。


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