Bulletproof Musician: 演奏中、何に意識を向けるべきか

Bulletproof Musician という英語のサイトの記事を、ランダムに翻訳するシリーズです。
ミュージシャンのメンタル面に関する内容を扱っています。
音楽をやっていない方でも、自己管理やマインドの問題に興味があるなら、是非ご一読下さい。




気づいたら人の話を聞き流していた、ということはありませんか?
同じことばかり言う教師や、お決まりの小言を繰り返す両親。
歯磨き粉のチューブを最後まで使い切るようにと言い続けるパートナー。

知らず知らずのうちに気が逸れてしまうのは、仕方がないことです。
我々の脳は、余計なエネルギーを使わない仕組みになっていて、以前と同じ出来事だと察すると、動きを休めてしまうものなのですから。

音楽の場合でも、もし同じ曲を20年も演奏し続けていたなら、集中できなくなってきて当然です。
ただもちろん、それは喜ばしいことではありません。


問題点

ステージ上で緊張しないためには、一瞬一瞬にだけ意識を集中させることが重要です。

しかし、同じ曲を長いあいだ演奏し続けていると、どうしても集中することが難しくなってきます。
そして、緊張すると、何に意識を向けるべきかさえ解らなくなります。
あるいは、解っていたとしても、集中を保つことが難しくなるのです。


全てを聞いていない

我々は、目の前の出来事のごく一部にしか意識を向けていないものなのです。
偉大なバイオリン教師の Dorothy Delay も、このことについて触れています。

演奏家というものは、自分に何が聞こえているか、正確に把握していなくてはなりません。
しかし、これが意外にできていない。
全ての音を聞くことは、とても重要です。
面白いことに、生徒たちが演奏中に聞いているものはバラバラです。
例えば、ある生徒の場合、バイオリンに関しては、音色も音程も隅々まで意識が行き届いていたのですが、伴奏のピアノは、リズムのみで音程までは聞けていませんでした。


今この瞬間

偉大なミュージシャンは、常に目の前の出来事だけに意識を集中させています。
次にくるフレーズや数小節前のことではなく、あくまでも、今この瞬間に対してです。
これはとても理にかなったやり方と言えます。
なぜなら、我々は目の前で起こっていることしかコントロールできないからです。

意識を集中させようとすると、テクニック等の具体的な面に目が行き、
ミスや細かい点を気にしがちです。
しかし、それは練習でやるべきことでしょう。

ステージでは、今この瞬間に起こっている出来事に対してのみ、意識を最大限に集中させてください。
音の微妙なニュアンスや、フレージング、和音の響き、周囲との音の混じり具合、等々。
これらに意識を集めることで、自分の中のポテンシャルが解放されていき、演奏はどんどん良くなっていくでしょう。


「マインドフルネス」とスポーツ

スポーツ心理学の世界で、「マインドフルネス」と呼ばれるコンセプトが注目されています。
これを習得することによって、よりハイレベルなパフォーマンスが可能になると考えられているのです。

心理学の分野で最初にマインドフルネスに注目した一人が、Jon Kabat-Zinn です。
彼はマインドフルネスを、 “集中を高め、今この瞬間の出来事をありのままに見ることによって起こる、覚醒状態” と説明しています。

どこかで聞いたことがあるように思うかもしれません。
というのも、マインドフルネスの概念は、ミハイ・チクセントミハイ(Mihaly Csikszentmihalyi)の言う “フロー(目の前のことに完全に没入し、我を忘れている状態)” にとてもよく似ているからです。

まだ現状では、マインドフルネスがスポーツに及ぼす影響について、十分な研究がなされているとは言えません。
しかし、興味深い事実がいくつもあります。
複数の研究によって、マインドフルネスを高いレベルで実践できているスポーツ選手たちは、より頻繁に「フロー」を経験している、という結果がでています。

ある研究では、練習メニューにマインドフルネスを取り入れたゴルファー達は成績が上がった、という結果が出ています。

また、NCAAのバスケットボール選手を研究対象としたものでは、マインドフルネスによって試合におけるフリースローの成功率が上がることが明らかにされています。


Take action

楽器を使ったエクササイズをひとつ紹介しましょう。
例えば朝起きてこれを行うことで、耳を覚醒させます。
それによって、ひとつひとつの物事に対する集中力が高まり、漠然と一日を始めることがなくなります。

1、自分の楽器でいちばん好きな音を探します。
残りの人生でひとつの音しか演奏してはならないとして、考えてみて下さい。

2、その音を、ゆっくりと、できるだけ美しく奏でます。ブレスを取り、あるいは弓を返して、じっくりと行います。

3、よく聴きます。とにかく聴くことに集中します – 初めてその音を聴いたかのように、そして心から感動したような気持ちで、聴いてください。

その音がどうやってはじまり、形づくられ、部屋を満たし、響き、そして消えていくまでを、少しももらさず聴いてください。

4、時間をかけて、自分の音に意識を集中させます。

いい音かどうかジャッジするのではありません。
楽器が鳴っている感覚と音の響きとによって、頭の中が満たされていき、他の思考が消えていくように意識するのです。


私にとっては、これはスイッチを切り替えるような作業です。
自分の音に意識を集めるうちに、他のことを考える余地がなくなっていき、集中力が高まっていくのが分かります。
この感覚は、誰でもすぐに感じることができるはずです。
最初のうちは慣れないかもしれませんが、しばらく続けてみてください。
次第に集中状態を保つことができるようになり、どれだけ緊張状態にあっても、即座に集中できるようになるでしょう。


The one-sentence summary

“ここにいること。他へ行くのは後でいい。単純なことでしょう?”  ~David Bader

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