Choosing a Mouthpiece (マウスピースの選び方)

マウスピースの構造についての英文を翻訳しました。
イギリスのマウスピース製作者 Edward Pillinger 氏のHPに掲載されている文章です。

Pillinger氏のマウスピースは世界的に高く評価され、クラシック業界だけではなく、ロルフ・キューン等ジャズミュージシャンにも愛用されています。
古楽器に対応するマウスピースの制作も行っており、Stephen Fox 氏制作の楽器にもマウスピースを供給しています。

私自身、過去にF1と926の2つのモデルを、フェイシング違いで4使用していました。
すべて素晴らしいマウスピースでした。
マウスピースを選ぶ際にメールで何度もやり取りしましたが、とてもフランクで誠実な方です。
翻訳に関しても快く承諾いただきました。

元の記事はこちらです。




Choosing a Mouthpiece

マウスピース選びは、奥が深いものです。
吹き心地だけではなく、楽器との相性も考えなくてはいけません。


マウスピースのボア(内部)の形状は、クラリネットの音程、音色、ダイナミック・レンジに影響します。

吹き心地を左右するのは、 フェイシング(先端の開き)と ビーク部分(上の歯を当てる部分)の形状です。
もちろん、個々のプレイヤーの吹き方との相性も関係してきます。



※元サイトの画像に加えて、より見やすいものをこちらに載せておきます。参考にして下さい。




音のバランス


スロート部
トーン・チェンバー
ボア&サイド・ウォール
 
全体の音のバランスを主に左右するのは、内径の広さです。
加えて、トーン・チェンバーとスロート部の形状も影響します。
スロート部分を広げると、中音域(喉音。ミ~シb)の音質が向上しますが、同時に音程が低くなりがちです。


Buffet R13に代表されるフレンチ・クラリネットの場合、中庸のボア・サイズ(14.6mm前後)がほとんどです。
このタイプの楽器は、円錐形ボアのマウスピースと組み合わせると、非常に音程が安定します。
円錐の理想的なサイズは、上が13.9mmで、下が14.9mmとなります。
最大でも、上部で14mm、下部では15mm以内にするべきです。
ただし、短いバレルを使用している場合は、例外となります。

明るく豊かな音色を得るには、スモール・ボアの楽器と(Pllinger926モデルのような)ラージ・ボア・マウスピースとの組み合わせが最適です。
これは人気のセッティングですが、音程が下がる傾向もあります。
その場合、音程を修整するために短いバレル(可能であれば、逆円錐形のスモール・ボア)を使用します。
さらに、必要であれば、喉音周辺のトーン・ホールを広げます。


フェイシング 

フェイシングとは、チップ・レールの形状と面積、サイドレールの幅との総合的なもので、リードの振動に最も影響を及ぼす部分です。
チップとサイドレールの面積が大きい方が、様々なリードに対応できますが、リード全体の反応は鈍くなります。
反対に、チップとサイドレールを細くすると、リードの反応が向上し、ダイナミックス・レンジが広がります。


リード

新しいマウスピースを選ぶ際には、古いリードを使うのは避けて下さい。

リードがよく鳴るかどうかが、ひとつの基準となるからです。
良いマウスピースであれば、新品のリード10個のうち、最低4〜5個はしっかり鳴ってくれるでしょう。
そのなかの2~3個については、非常に響きがよく感じられるはずです。
もし複数のマウスピースで迷った場合には、リードが柔らかく自由に感じるものを選ぶといいでしょう。

一般的に、開きが狭いマウスピース (1mm前後) には厚いリードを、反対に広いもの (1.20mm以上)には薄いリードを合わせます。
もちろん、チップ先端の処理(角ばっているか、丸くなっているか)やフェイシングの深さも、リードの反応に影響します。

フェイシングが深い方が、リードのコントロールはしやすくなります。
しかし、先端部の開きに対して深すぎると、リードの反応が鈍り音の輪郭がぼやけてしまいます。
また、チップの先端が丸みを帯びていると、抵抗感が増します。

これらから言えるのは、1.3mmの開きのマウスピースであっても、1.10mmのものと同等のコントロール性を持たせることが可能だということです。
もちろん音色や吹き心地は異なります。
音色については、開きが1.05mm以下の場合はよりフォーカスした音になり、1.20mmを超えると広がりのある音になってきます。
1.20mmの開きに対して0.20mmの深さのフェイシングが、標準的でしょう。

ドイツ菅用のマウスピースは、独特です。 
開きは、1.0mm でも広いくらいで、0.8mm の開きに25mm の深さのフェイシングが標準とされます。
ウィーンでは、0.6mmと極端に開きの狭いものも使われています。


音色

”良い音” の解釈は様々です。
フォーカスした音を好むか、広がりのある音を好むかは、奏者によって異なります。
高音域では抜ける音、低音では響きのある音を求めるプレイヤーもいれば、強弱の幅を重視する者や、最高音が楽に出ることを優先する者もいるでしょう。 
多くの楽器の中で埋もれないことも重要ですが、これについては、マウスピースと楽器を様々な条件下で試してみる他はありません。


まとめると、以下のようになります。

1. フェイシングの設計が最優先です。
吹きやすく反応の良いフェイシングがあって初めて、他の要素を考慮することができるのです。

2. リードのセッティングは慎重に行って下さい。
チップの形状に合わせて、位置を調整しながら、時間をかけてセッティングします。そして、リードの鳴りが悪いと思ったマウスピースはすぐにあきらめましょう。自分の感覚も狂ってきてしまうことになりかねません。

3. 細身のU-frame型スロートは、クリアでフォーカスした音色を生みます。
その場合、バッフルは高過ぎずカーブ型で、スロート部分も適度な広さが必要です。さもなくば、音が薄く軽くなってしまいます。

4. 側面の斜角の大きいA-frame型のスロートは、暖かく広がりのある、ダークな音色になります。
しかし、バッフルが深すぎると、楽器によっては音の芯が無くなってしまうので注意が必要です。

5. ストレート形状のバッフルは、よく響く "ベル・トーン" をもたらします。
しかし、バッフルが高いと音色が固くなる可能性もあります。

6. マウスピースの材質も、音色に影響します。
従来より好まれてきた素材はエボナイト(ハードラバー)ですが、今日では、数多くの新素材がマウスピースに用いられています。
ポリマーとエボナイトの比較、 あるいは特定の材質の優劣については、さまざまな意見があります。
しかし、重要なことは、自分の耳を信じることです。

材質による音色と吹き心地への影響は、ここで説明するには複雑すぎるので、簡単な説明にとどめておきます。
リードが振動を開始するのは、マウスピースの先端、チップ部分です。
素材ごとに共鳴する周波数が異なるため、チップの素材によって音色も変わります。
私の経験では、柔らかい素材は低い周波数に共鳴するので、音色に幅が出ます。
硬い素材は高い周波数に共鳴し、音色はスムーズでクリーンになりますが、音色の幅はせまくなるでしょう。
それぞれの極端な例は、ソフト・プラスチックとステンレス・スチールです。

しかし、材質による違いは、あくまでも他の要素が全て「正しく」設計されていて初めて認識されるものだと忘れないでください。

音色、レスポンス、リードの適応性などに納得しマウスピースを選んだら、最後に、それまで使っていた古いマウスピースと吹き比べてみます。
そのうえで新しいものの方が良いと感じたら、間違いありません。

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