怪我したハトに出会った話

少し前のことです。
外でお昼を食べようと出かけました。
店に向かって歩く途中、自転車から降りて立ち止まってるおばさんがいます。
視線の先を見ると、塀の隅に、ハトがうずくまっている。
怪我をしているみたいです。
「あっちに羽根が散らばってるから、カラスにやられたのよ、きっと。」
おばさんは、公園の側に住んでいて、カラスが鳩を襲う場面をよく目にするそうです。
近寄って見てみると、左胸の辺りが赤い。
血が流れてるのじゃないけど、かなり大きく肌が裂けてるように見えます。
羽は無事なようですが、じっと動かない。
ときどき首を小さく動かして、震えています。

どうすればいいのか。
「病院に連れて行った方がいいんですかね?」
「この先に一件あるわよ。」
とおばさんが言うので、電話をしてみました。
「その状態だと入院になると思います。そうするとウチでは対応ができないんです。鳥を扱う病院を調べて紹介しますので、5分後にまた電話してください。」

いわゆる動物病院は、犬や猫が専門で、鳥は扱っていないそうです。
ああこれは意外に面倒かもしれない。
「わたし行かなきゃいけないから、この子を病院まで連れて行ってもらえないかしら?先生に私の名前言えば分かるから。とりあえずこれ置いて行くからお願い。」
と言って、おばさんは5000円を差し出します。
「カラスは残酷なのよ。羽をむしって飛べないようにしてから、ゆっくり殺すのよ。助からないとしても、苦しまないようにしてあげられたらねー。」
そうなんだ。
カラスが鳩を襲うこと自体、知りませんでした。
とりあえず受け取って、連絡先を交換して、Mさんは自転車に乗っていきました。

さっきの病院にかけ直して、 鳥を扱う病院を紹介してもらい、問合せました。
「野鳥は診れないんですよ。ウィルスを保持してる可能性もあるので。警察に連絡してみてください。」
「警察で、診てもらえるんですか?」
「分かりませんが、保健所に連絡するか、預かるか、対応してくれると思います。ウチでは無理ですのですみません。そして、素手では触れないようにしてくださいね。」
そうなのか。ウィルスなんて、考えてもみなかった。

110番に電話しました。
「怪我をした鳩を見つけたんですが。」
「どこかから落ちたんですか?それともイタズラですか?」
イタズラ!
そうか、面白半分で動物をいじめる人が、いるのか。
「いえ、カラスか何かに襲われたんだと思います。」
「飼っているのではありませんよね?」
「はい、たまたま道で見つけたんです。」
「場所はどこですか?」
電柱に書いてある住所を伝えると、いま向かうから、もう離れてもいいですよ、と言われました。

でも、そのまま立ち去る気にはなれません。
5分ほどして、若い警察官がやってきました。
親身になって話を聞いてくれます。
ここまでの流れを説明すると、何箇所かに電話で問い合わせてくれて、
「預かることはできますが、手当てはできなくて、一定期間したらまた離さないといけなんです。それに、この状態だと、捕まえる時と連れて帰る途中でも暴れて、死んでしまうかもしれない・・・」
と、こちらに気を使いながら説明してくれます。
「警察で預かるか、そのままにしておくか、どうしますか?」

どうしよう。
預けても何も進展はしないようだし、病院でも診てもらえない。
さすがに、自分で連れて帰って手当てするわけにもいかないよな。
このままにしておくしかないのか。

最後に、もう1件、野鳥の保護団体に問い合わせてみました。
すると、カラスとハトは増えすぎてしまい、減らす方向でいて保護はできない、と言われました。
とっても申し訳なさそうに。

仕方ない。
その場に残していくことにしました。
ただ、怪我をしていて、そのままではカラスや猫にすぐにやられてしまうかもしれない。
せめてダンボールにでも入れておいてあげよう、と思い、用意した布で体を包んで持ち上げようとしました。
するとその途端、スタスタと歩いて逃げだしました。
歩けるじゃん!
しかも、ヨロヨロじゃなくて、スタスタ。
良かった!
動けないほど弱ってるのかと思ったら、そうでもないみたい。
これは、逆に捕まえるのが一苦労でしょう。
スタスタ逃げて、大きな石の影に身を寄せました。
ケガをして弱っているには違いないので、心配ではあるけど、なんとか体力が戻れば、助かるかもしれない。
現実的に考えて、それが最善の方法に思い、その場を去りました。

夜に様子を見に行くと、ハトはもういませんでした。
翌日の昼間にも行ってみたけど、何か起こったような形跡はありません。
もし襲われてたら、争ったあとがあるんじゃないか、それがないということは、少なくともここでは何もなかったんだろう。
無事に、どこかで休めてればいいな。

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