N.O.生活19 - バンドの変化、ジャズ・ブランチ

Moonshinersの活動は順調でした。
数少ない若手トラディショナル・ジャズ・バンドとして、いろんな場所にも呼ばれるようになりました。
パーティ演奏も増え、フレンチ・クォーター・フェスやジャズ&ヘリテイジ・フェスにも出演しました。

そんな中、トランペットのゴードンがニューヨークに引っ越すことになりました。
彼は古いスタイルだけではなくモダンジャズも演奏するし、作曲やアレンジもやるので、NYでチャレンジしてみたい、というのは当然です。
ゴードンは音楽面での中心人物だったので、「バンド」としては、そこで一区切りでした。
僕が大学3年くらいのことだったと思います。

それからは、何人かのトランペッターに手伝ってもらいながら活動を続けました。
若手からベテランまで、色んなミュージシャンと演奏しました。
リハなんてやらないので、もちろんオリジナル曲はできないし、スタンダード中心のセッション的なライブになります。
Moonshinersの名前はそのままですが、中身は違います。
良くも悪くも、スタンダード曲を演奏する若手バンドになりました。


その頃には、バンド以外にも色んな人と演奏する機会が多くなっていました。
その中で面白かったものをひとつ。

ニューオリンズでは「ジャズ・ブランチ」というものがありす。
その名の通り、ジャズの演奏を聞きながらブランチを食べるんです。
たしかヒルトンだかどこかの高級ホテルで、バンジョーとベースとのトリオでブランチ演奏をやりました。

30分くらいの短いステージの合間に、各テーブルを回ります。
リクエストを聞いて一曲演奏してチップを受け取って隣のテーブルに移る、ということを、全席やるんです。
高級ホテルだからか、演奏を断られることはなく、チップの払いもいい。
20ドル札を渡されることも少なくありません。
チップの渡し方もシャレています。
「いい演奏だったよ、ありがとう!」なんて言いながら握手をされて、握った手の中に折りたたんだお札が入ってる。
その一連の動作がまたスマートなんですよ。
中には、その慣習を知らずに、チップをくれない人もしましたけどね。

だいたいのお客は、リクエストを聞かれても曲を知りません。
そうすると、とりあえずニューオリンズの有名曲、ということで「聖者の行進」をあげます。
そのパターンがあまりにも多くて、ほとんどずーっと「聖者の行進」を演奏し続けることになるんです。
リクエスト演奏だけに、曲をいじることもできない。
せいぜい、リズムやキイを変えるくらいです。
かなり広いレストランだったので、冗談みたいにずーっと同じ曲を演奏して回る。
この時ばかりは、さすがに飽きました。
ニューオリンズのバンドに「聖者の行進」をリクエストするといい顔をされない、というのは、誰しも似たような経験をしてるからなんですよ、きっと。

逆に、すごくマニアックな曲をリクエストされて困ることもありました。
Johnny Martha の曲を何かやってくれ、なんて言われたこともあります。
僕がメロディを知らない曲は他のメンバーが歌ったりして、それぞれが知ってる曲を持ち寄って対応しました。
うろ覚えでもなんとか形にして。
歌本やコードブックも何もなくても、なんとかなるもんですよ、本当に。

ジャズブランチでは、だいぶ鍛えられました。
儲かるし、いい「仕事」でしたね。

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