2016年10月10日月曜日

N.O.生活18 - アルバム制作の話

ニューオリンズのバンドは、すぐアルバムを作ります。
ライブ活動が主なので、そこで売るためです。
会場の大きさを問わず、あるいはストリートミュージシャンでも、どこで誰でももたいていCDを売っています。
観光客が多いので、お土産感覚で買ってくれるんですよ。
チップとともに、CDの売り上げもミュージシャンの収入源です。

日本でアルバムを出すというと、ライブ会場のいわゆる「手売り」以外に、大小いろんなお店に置いてもらったり、事務所や音楽会社が宣伝して大きく流通されたりと、いろんな可能性があります。
でもニューオリンズでは、「アルバムセールス」という概念すらありません。
(もちろん、全米規模のレーベルと契約してるミュージシャンは別です。)
アルバムを作るのは、ライブ会場で売って日銭を稼ぐためです。

手売りが主ですから、基本は自主制作です。
もちろんお金もかけません。
何回も録り直したり、あとから色々なパートを重ねることはあまりしません。
ジャズ系はともかく、ロックバンドだって一発録りが多い。
マスタリングなどの仕上げ作業も、日本の水準からすると簡素なものです。

そもそも、CD屋だって町に一件しかありませんからね。
『Louisiana Music Factory』という店。
そこにいけば、ニューオリンズ中のミュージシャンのCDがほんんど全て聞けてしまう。
地元のマイナーミュージシャンが全米人気アーティストと同じ棚に並んでいて、試聴機のニューオリンズものの比率も高い。
面白いのは、手焼きのCDRも同列に売ってるところです。
家で焼いてカラープリンターでジャケットを作ったものが、CDと同じ値段で同じ扱いで売られている。
ものすごい粗悪な画質のジャケットで、しかも折り方が雑すぎてプラケースのサイズに合ってないやつとか、平気であります。

細かいことは、気にしない町なんです。


僕のバンドも、CDを作りました(2枚アルバム出してるんですが記憶が曖昧で、一回のレコーディングとしてまとめて書きます。)。
郊外にあるWord Of Mouth Studio。
格安の割にいい仕事をするので人気のスタジオです。
オーナーのティムがほぼ一人で切り盛りしています。
彼自身もミュージシャンなので、音楽面から客観的な意見ももらえるし、マスタリングまでまとめて面倒みてくれる。
抜群のコストパフォーマンスの良さで、常にスケジュールが埋まっています。
ニューオリンズでCDを買うと、かなりの割合でWord Of Mouthスタジオの名前があるはずです。

大小の2部屋+コントロールルームだけの、小さなスタジオです。
大きな方の部屋でさえ、日本の感覚だと、小さなライブハウスか広めのライブバーくらいのサイズしかありません。
僕らのバンドは、ドラム、ベース、バンジョーと、4本の管楽器で、合計7人。
全員が同じ部屋に座って、ちょうどいいくらいです。

部屋の感じも、日本の一般的なスタジオとは違って、まるで友達の家みたいです。
壁も、防音の処置とかしてたのかな?なんか普通の部屋の壁みたいなんですよ。
床はじゅうたんだし。
いろんな置き物とかもゴチャゴチャ置いてあって、本当にただのリビングルームみたい。

そんな雰囲気に加え、、ティムも気さくな人で、すごくリラックスしたレコーディングでした。
マイクは各楽器に一本づつ。
ドラムの前にだけ仕切りを立てて、せーの!で録音します。
ミスをしたら最初からもう一回。
3〜4時間のセッションを2回やって、アルバム一枚分を録音しました。
いちおうコントロールルームでみんなで録ったテイクを聞き直すけど、特定の箇所だけ修正するようなことはありません。
ほぼワンテイクだし、ツーテイクあるものについて、どっちのテイクがいいか決めるだけ。
ふたつのテイクを繋ぎ合わせることも一部やったけど、クリック出してないのでテンポも微妙に違うし、繋げる箇所も限られている。
まさに録って出しです。

そんなやり方が、ニューオリンズのローカルシーンではスタンダードです。
はっきり言って、日本の基準からすると、全体的に雑だったりするし、音質もよくありません。
でも、演奏のノリが良ければ、それでいいんです。
第二次大戦前の古い音源とかだって、そうじゃないですか。
音質は悪くても、素晴らしい音楽に感動することはたくさんあります。

そういえば、帰国したときに、ニューオリンズで評価の高いJohn Boutte と Paul Sanchez のアルバム『Stew Called New Orleans 』を友達のミュージシャンに聞かせたことがあります。
第一声は「音質ひどいね」でした。
その人はいわゆるメジャーレーベルで音楽活動をしていたので、キレイな音に耳が慣れてたんでしょう。
もったいないな、と思いました。
音楽自体は最高なのに、音質に耳がいってそれが聞こえてこないなんて。
ニューオリンズでは、その年のベストアルバムとして評価されてるし、多くの人に愛されてるアルバムなのに。
慣れというのは恐ろしい。

ニューオリンズでは、音楽の中身がよければ、それが全て。
細かいことは、気にしない町なんです。
その温度差は、日本とはだいぶ開きがあります。


という具合で、アルバムを作りました。
みんなで集まって数時間スタジオで楽しく演奏して、終わってスタジオの庭でピザを食べて帰って、たしかもう2〜3週間後には発売して、Louisiana Music Factory でインストアライブをやりました。
レコーディングもインストアも、何も特別なことではありません。
全てが毎日の生活の、演奏活動の延長に過ぎない。
その自然さが、ニューオリンズです。


そんな風にして作ったアルバムは、地元の音楽雑誌Off Beatで、何の部門か忘れたけど、年間ベストアルバムに選ばれました。
新しいバンドを、応援してくれる。
そういう町なんです。

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