ユーリ・ノルシュテイン『話の話』は本当に美しい

イメージ・フォーラムに、ユーリ・ノルシュテイン特集を見に行きました。
ああ美しい。
劇場で見れて本当によかった。


チラシには、「アニメーションの神様、その美しき世界」とあります。
神様なんて呼ばれてるんですね。
僕はアニメーションに詳しいわけではなく、そうした評価については、あまり知りませんでした。
たくさんの賞も取っていて、世界的に尊敬を集めているそうですね。


『話の話』をはじめて見たのはハタチごろだと思います。
どっかで借りたんです。
お茶の水のJANISか、高円寺のオービスか、吉祥寺の小さなレンタル屋か、高田馬場か。
とにかくどこかで借りて、高円寺の狭い部屋の、水色に塗った、14インチかな?の、いちばん小さなサイズのブラウン管のテレビで見たはずです。

なんで借りたのかも、覚えてません。
当時はとにかく映画が好きで、レンタルで1日3本とか、面白そうなものを片っ端から見ていました。
話題作や名画はもちろん、いわゆるアート寄りのものやカルト作品も見ていました。
そういうデレク・ジャーマンとか変わったものはアップリンクが出してることが多くて、ビデオの背にアップリンクのマークが入ってるものは、とりあえず手に取ってみてました。
たぶん、『話の話』もアップリンクがビデオ化してて、それで気になって借りたんじゃないかな。

まだ海外のアニメに人気が集まる前です。
他には、ヤン・シュワンクマイエルとフレデリック・パックと、あと知られていたのはスノーマンくらいじゃないでしょうか。
そういう状況で『話の話』もパッケージ化されてたんだから、名作としての評価をどこかで耳にしていたのかもしれません。

予備知識はありませんでした。
ビデオのパッケージに書いてある紹介文だけ。
知らずに見て、魅了されました。
わかりやすい映画じゃない。
意味やストーリーは、よくわからなかったと思います。
でも、深く心に残りました。
『話の話』は、短編です。
30分しかない。
なので、借りたビデオには、他の作品も入っていたんだと思います。
ノルシュテイン作品じゃなかった気がしますが、覚えていません。
『話の話』の印象しかない。
それくらい、感動したんでしょう。


2度目に見たのは、それからたぶん数年後、友達が、テレビでやった番組か映画かを録画したものを貸してくれたことがあります。
僕はもうテレビを外していて見れなかったので。
で、その番組か映画かを見終わったあとに、たまたま続けて『話の話』が入っていたんです。
びっくりして嬉しくて、また見てああやっぱりこれ好きだなーって思いました。
その感動が強くて、目的の番組か映画かが何だったのか、まったく思い出せません。
彼は小説家を目指してた。
しかも、志茂田景樹みたいなやつを。
いまどうしてるんだろう。


今回は、3回目です。
劇場で見るのははじめて。
期間も空いているし、内容は断片的にしか覚えてない。
前に見たときの感動した記憶だけが、あって、ワクワクします。
他のノルシュテイン作品も一緒に上映されるというのも、楽しみでした。

ぜんぶで6作品。
どれも素晴らしかった。
初期のはテイストも違うけど、面白い。

でもやっぱりその中でも『話の話』が大好きです。
この映画の魅力を人に伝えるのは難しい。
明確なストーリーらしきものは、ありません。
イメージ映像というか、かっこよく言えば、映像詩、でしょうか。
映像が圧倒的に美しい。
でも、絵が美しいからいい、ってわけじゃない。
なんか見てるあいだ中、自分の中になんとも分類できない感情みたいなものが湧き上がってくるんです。
ロマン、郷愁、あこがれ、ふれあい、愛、哀しみ、滋味、家族やともだち、人生、我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか。
言葉であらわせない。

さすがに3回目だし僕自身もむかしより多くのものを見てきたし、テーマのような内容のようなものは、なんとなくわかります。
戦争というのが、監督の体験的にもソビエトの歴史的にも重要な要素であって、生と死とか、連鎖とか再生とか希望とかね、たぶんそういうことを描いてる。
でもそれを考えることは、重要ではない。
この映画を見て湧き上がってくる感情。
こういう、説明できない感情体験ができるものが、僕にとっては本当に大事な作品であって、それは「芸術」って呼んでもいいのかもしれません。

映画でも本当に心に残ってるのって、ストーリーじゃなくて、あるワンシーンだったりします。
それは人の顔だったり風景だったり、もっと漠然としたあいまいにしか思い出せない印象だったり。
説明できるものなんて、たかが知れてるんですよ。
説明できないものにこそ、価値がある。
『話の話』は、それをわからせてくれる、かけ値なしに美しい映画です。



この特集上映、12月からやってるそうですが、ぜんぜん知りませんでした。
ネットで検索しても、ぜんぜん出てこないし。
前回のブログをFBにアップしたのを見た友達が、教えてくれたんです。
そして、それを見てまた別の友達も知って、劇場へ行ってきたそうです。
SNSの力。
でももっとちゃんと宣伝してほしいな。
せっかくの機会を、見逃すところだった。

見れてよかった。

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