アルバート式クラリネット

僕の吹いてる楽器は、アルバート式クラリネットといいます。
現在のクラリネットよりも以前に普及していた、今はもう作られていない楽器です。
といっても、古楽器と呼ぶようなものではなく、外見もほぼ現在の楽器と変わりません。
違うのは、内径やトーンホール(指穴)の大きさ、キイの数や配置などの細かい部分です。
トーンホールが大きいので指で塞ぎづらいし、キイも少なかったりして、うんと指を広げて演奏しないといけないので、正直やりづらいです。
音にもムラがあるし、ピッチも不安定です。

現在のクラリネットはボエーム式と呼ばれ、操作性の向上のためにキイの数が増え、ピッチや音色の均一化のために内径やトーンホールのデザインが変更されています。

今では世界中のほとんどの地域でボエーム式が使われています。
クラリネットの歴史としては、その後もボエーム式に更に改良を加えた楽器がいくつも登場しましたが、普及しませんでした。
それだけボエーム式は楽器として完成されているんです。
僕も以前はボエーム式を吹いていましたが、あらゆるキイに対応できるし、とても吹きやすいです。

じゃあなんで僕がアルバート式を吹いているのか。

それは、音色が好きだから。
さらに、音が不安定なことが、逆に一つの音の中での自由度を高めてくれます。
よりボーカルに近い感覚、と言えばいいでしょうか。
実際に聴いた方は分かると思いますが、僕の演奏は、いわゆる「クラリネット」のイメージとはだいぶ違います。
誰も僕のようには吹けません。
僕も、普通のクラリネット・プレイヤーみたいには吹けません。
いや、実際には、必ずしも不可能ではないとも思います。
ただ、それならボエーム式を選択すればいいわけで、わざわざアルバート式を吹く理由がなくなります(例外として、戦略的にアルバート式を選択したプレイヤーに Evan Christopherがいます。本人いわく、ボエーム式のプレイヤーは数多く、抜きんでることが難しいから、セールス・ポイントとしてアルバート式にしたそうです。そしてその戦略は成功しています。)。
僕は歌が好きです。
斬新なフレーズや宇宙的アドリブには興味がありません。
歌心やメロディの中での表現力を追及した結果、アルバート式という選択になったのです。

自分の音色・演奏には確信を持っています。

ただ問題は、ハマる場が少ないということです。
それで悩んだ時期もありましたが、最近は吹っ切れました。
別に色んなことやって器用に世の中渡っていく必要はないということです、やっぱり。
そういうのが得意な人は他にいるし。
既成の枠内に場所がないのはもう仕方がないんで、自分に正直に進むしかないです。
ひとつだけ心配なのは、楽器の寿命。
愛用の楽器は 80年以上も前に作られたものなので、僕より先にくたばらないでくれ、と願うばかりです。
愛器が健在な限り、アルバート・クラリネット奏者として精進してゆきます。

アルバート・クラリネットについては、今後も少しづつ書いていくつもりです。

ご期待を。

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