of Tropique と Compostela

of Tropique のデモ音源を渡した人に、Compostelaを連想した、と言われた。
おどろいた。
そう言われたのは、じつは、ふたりめだ。

コンポステラ。
元じゃがたらのサックス奏者、篠田昌己が1990年にリリースした初ソロ・アルバム。
このアルバムを出した2年後に、急性心不全で34歳の若さで亡くなっていて、ぼくが知ったときにはもうこの世にいなかった。
中央線/アングラ/フリー/渋さ知らズ系のジャズ界隈で活動してたみたいだけれど、ここでは世界の民謡や流行歌に目を向けている。
アングラジャズ系の人たちが土着の音楽を取り入れる、たぶん先駆けのようなアルバムなんだろう。
一部では名盤として語りつがれている。

ぼくが真剣に楽器をはじめる、きっかけとなったアルバムだ。
高円寺の部屋で、夜、ひとりで聴いて、感動して、サックスをやろう、と決意した。
そうだ、その時は手元に楽器を持ってなかったんだ。
すぐに友達に連絡して、アルトを借りて、まいにち練習した。
突然の行動だったから、当時の彼女におどろかれた。
習いに行くの?って聞かれたのを、おぼえてる。
スクールか何かを想像したんだろうか。
そんな発想はなかった。
自分と篠田昌己しかいなかった。
篠田昌己のように吹きたい、という気持ちだけで、ひとりで楽器にむかっていた。


of Tropique をやるときに、コンポステラはまったく頭になかった。
膨大な音楽をインプットとして集中的に聴いたけれども、篠田昌己周辺のものは、そこに入ってなかった。
できあがったものも、音楽的に似ているとは、思えない。
バンドの編成だってちがうし、管楽器奏者としても、篠田昌己はフリーの要素もあるジャズの人で、ぼくの演奏とは遠い。
似てないのに、どうして。
言われるまで、コンポステラを思い出しもしなかった。
of Tropiqueの他のメンバーは、コンポステラを聞いたことあるんだろうか。
いままで一度も会話にのぼったこともないし、全員が知ってるってことはないだろう。

コンポステラを聞き直した。
やっぱり似てない。
わからない。
わからないけど、ものすごくうれしい。
20年くらい前に、篠田昌己を聴いたときの感動が、からだのなかに残ってるんだ。
音楽的なことじゃなくて、もっと心の奥深くのなにかが。
自分はまちがってなかったんだ、と思える。

of Tropique は、ぼくのバンドじゃない。
みんなで作ってる。
だからきっと、ぼくにとってのコンポステラのようなものが、他のメンバーにもあるとしたら、その断片も聴こえてくるのかもしれない。
そうしてできあがったものはもう、誰の音楽、ということじゃないんだと、思う。


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