2017年10月14日土曜日

NO生活28 - 奨学金トラブル

いよいよ卒業まであと数ヶ月になって、金銭トラブルが発生しました。
今学期分の奨学金が、口座に入金されていないんです。
どういうことなんだろう?
遅れるのかな?
何の通知もないんだけど。


奨学金オフィスに行って聞いてみると、何かが条件を満たしてなくて、支給されない、と言います。
窓口では、それ以上の具体的なことは教えてくれない。
そんなこと言われても、思い当たることはありません。
特に何か変えたわけでも、新しいことをしたわけでもないし。


まいったな。
奨学金がないと、授業料も払えないから、卒業できないじゃん。
まあ、学位取るために留学したんじゃないから、それでもいいのかな。
そしたらもう授業出る必要もないわけだ。
でも、食費もぜんぶ自腹になるし、寮にもいられなくなる。
数ヶ月くらいなら、誰かの家に置いてもらえるかな。
ライブの稼ぎで、生活はなんとかなるだろう。
そうして、毎日好きな音楽やって好きな場所に行って過ごしたら、それはそれで楽しいかも。
と考えてみても、やっぱりこれまでの3年半が無駄になる気もして、どこか割り切れません。


音楽学部のオフィスに相談してみました。
学部長のウィリアムの部屋に行って、一緒に僕の授業の取り方やいろいろを見直してみても、何が問題なのかわかりません。
決められたクラスはちゃんと取ってるし、成績が悪いわけでもない。
ウィリアムも首をひねって、奨学金オフィスに問い合わせて調べるくれることになりました。

とりあえず、いままで通りに学校生活を送ることにしたけど、やっぱりけっこう授業も忙しくて大変で、卒業できないんだったら、こうやって教科書覚えたり深夜まで勉強したり、ぜんぶ無駄だよなーなんて思いながらしばらく過ごしていると、ウィリアムのオフィスに呼ばれました。
どうやら、単位の取り過ぎだった、と。
ジャズ課のカリキュラムのレッスン以外に、クラシックの先生からも個人レッスンを受けていて、それがいけなかった。
奨学金は、卒業までに必要な単位分の授業料しかカバーしていないので、課外レッスンの分が規定の単位数をオーバーしていたんです。
レッスンを勧めたのはこっちなんだから、Teppeiに責任はない!
あっちに話してなんとかするから、任せとけ!

と、ウィリアムは言ってくれました。

もう自分の手には負えない話になってきた。
だんだんと話は広がって、いろんな人が心配してくれるようになりました。
廊下ですれ違うたびに、どうなった?大丈夫か?と声をかけられます。
なかなか話し合いは進まないようで、そのうち怒りはじめる先生もいて、音楽学部vs奨学金オフィスのようなことになってきました。

正直、こんなにも大勢が自分のために動いてくれるなんて、想像しませんでした。
日本であれば、学校でも会社でもどんな組織でも、こんな風には、たぶんならない。
いや、アメリカでも、ニューオリンズ以外では、どうだかわかりません。
この町には、いわゆる「ホスピタリティ」「助け合いの精神」みたいなものが、空気のように、当たり前にあふれている。
それをこの時ほど実感できたことはありませんでした。
ニューオリンズは音楽の町です。
でも、なんといっても素晴らしいのはそこに住む人たちであって、それだからあんなに豊かな音楽が生まれてくるんです。


なんてことを思いながら、しかし事態は進展せずに、卒業まであとひと月、というくらいになってしまいました。
その間、淡々と学校生活を送っていましたが、宙ぶらりのような気持ちがどこかにあって、ようやくウイリアムに呼ばれたときは、結果に関わらずこれで落ち着くな、と思いました。
さて。
残念ながら、奨学金オフィスとの話し合いは、決裂したそうです。
が、なんと驚いたことに、音楽学部の予算の中から、僕の学費を特別に負担してくれる、と言うじゃないですか!
信じられない。
異国から来た留学生ひとりのために、そんなことまでしてくれるなんて。

それを伝えてくれるウィリアムは、満面の笑顔でした。

校内ですれ違うたびに、事情を知る誰もが、祝福してくれます。
「おめでとう!」「よかったな!」と、みんなが声をかけてくれる。
心から。
嬉しいと同時に、考えました。
逆の立場だったとしたら、自分はこんなに素直に、他人を思い、行動できるだろうか。

そのとき僕に向けられたたくさんの笑顔は、いまでも忘れられません。
それは、無事に卒業できたということよりも、大事な記憶です。
こうして何年もたってから振り返っても、幸せな気持ちになる。

あらためて、ニューオリンズという素晴らしい町に、4年間面倒をみてもらった恩を、感じずにはいられません。

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