『グリーンブック』は「黒人映画」じゃなくって「いい映画」でしょ

『グリーンブック』を見ました。


南部が舞台で、音楽と人種問題を扱った映画にも関わらず、スパイク・リーをはじめ黒人側(?)から批判されている、といった前情報があったので、あんまり期待してませんでした。でもこれが、思っていたよりも、すごくいい映画でした。

この映画に対する批判は、白人の視点から作られてる、人種差別を美化してる、といったものです。
たしかに「ウェル・メイド」な映画だと思います。「お約束」なシーンも多いし。
現在の人種やジェンダーの問題意識の基準からすると物足りない。もっと黒人側の描写に踏み込む作り方もできたでしょう。
でも、それではまったく違った内容になってしまう。
映画は主義主張のツールではないんだから、こういう映画があってもいいじゃない。悪意を持って意図的に人種差別を美化してるとは、とうてい思えなかったし。
芸術は、主義主張や社会の風潮やらいろんな思想から自由な方がいいなって思うんですけどね。

演出も説明的ではなくて良い。王道のエンタメ作品に馴染んだお客にはディテールを読み取れないだろう、ってくらいの抑えた作りで、それも好みでした。
アカデミー賞取らなかったら、日本では客入らなかったんじゃないかな。
案の定、僕が見た回はほぼ満席だったけど、最後のエンドロールが流れた瞬間に、多くのお客が帰りはじめて、席に残ってる人も携帯を開きはじめて画面の光が邪魔で、映画館が明るくなったら半数くらいしかお客は残っていなくて、なんだかなーと思いました。
とはいえ、すごくつまんなかった、って思う人は少ないんじゃないでしょうか。
まあとにかくいろんな意味で、とてもバランスの取れた、いい映画です。



この映画を見た音楽ファンの「いい映画だったけどスパイクリーが怒るものわかるかも」みたいな曖昧な感想をSNSなどでたくさん目にしました。
でも、いい映画はいい映画なんですよ。黒人で、人種問題に意識的で、メッセージ性のある素晴らしい作品を残してきた人物が何と言おうと、自分がいいと思ったらいいって言えばいい。(ちなみに僕はスパイク・リーの大ファンです)
黒人音楽が好きで救われた経験がどれだけあろうと、黒人は別に偉くない。もちろん白人もドイツ人も偉くないし、日本人だって偉くない。
『グリーンブック』を見て、海外での議論を耳にして「人種差別の観点からすると〜」なんて言ってる人より、いいと思った自分の気持ちをまっすぐに発言できる人たちの方が、よっぽど差別問題に貢献できると思うよ。

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