壁には卵パック

コロナの影響が出はじめてもうじき半年。
ミュージシャンは過去の職業だ、という冗談で盛り上がることもしばしばです。
そんな中、家で曲を作っています。
of Tropique をやっているおかげで、作るだけじゃなくて発表できる場があるのがありがたい。
2年前には作曲もしてなかったし機材も持ってなかったし、想像もできなかったことです。
もし今でも演奏だけしかやってなかったとしたら、もっと煮詰まって落ち込んでいたかもしれません。って、実際そうした状況のミュージシャンもたくさんいるだろうし、その中には本当に素晴らしい才能を持った演奏家もいるんだろうし、そんな人も先が見えない中で気持ちを保つのは簡単なことじゃないだろうな、自分はラッキーだな、なんて不遜な考えすら浮かんできます。

というわけで、音楽制作のために、家を整理して作業部屋を作りました。
防音・吸音対策もしなきゃと思って調べたら、防音アイテムってどれも高くて、平気で数万円もするんですよね。
それで、壁一面に卵パックを貼りました。紙製のやつです。
いちおう防音効果があるらしいし、なんたって安い。60個で2000円しませんでした。
壁に段ボールを当ててその上に貼ったんですが、段ボール代とかボンド代とか諸々合わせても、全部でかかったのはせいぜい5000円くらいでしょう。
あと驚いたのは、卵パックって、昆虫グッズに分類されてるんですよ。
コオロギの飼育に使うらしいけど、どうするんだろう。卵の部分に1匹づつ住むんだろうか。大量に売ってるってことは、それを定期的に取り換えるんだろうか。
まだまだ世の中には知らないことがいっぱいあります。

卵パックの防音効果は、よく分かりません。まだ部屋もまだちゃんと使ってないし。
たくさん売られてる高価な防音グッズと比べたらきっと劣るのかもしれないけど、まあもともと上質な防音なんて無理だと分かってるし、気持ちの部分が大きいんですよね。
というのは、昔のアメリカ南部の小さなスタジオの写真なんかで壁に貼ってあるのを見たことがあって、憧れの気持ちがあるんです。ボロいアパートの1室で、壁に卵パックを貼って中古で買った安いレコーダーで汗だくで録音した音楽が多くの人の心を動かす、みたいなの、かっこいいじゃないですか。
僕は一人での宅録だからちょっと雰囲気は違うけど、壁一面の卵パックがソウルを注入してくれる気がして、なかなか満足しています。
やっぱ音楽って、気持ちがないと続かないですからね。


機材も買い足しています。
制作のクオリティを上げようとすれば、必要な機材の値段も上がるもの。
楽器と同じだと思えばいいんでしょう。
僕のクラリネットは特殊で需要がないから最高のものでも30万円くらいだけれど、サックスなんて100万超えも珍しくないわけで、クラリネットだって普通のプレイヤーはたぶん50万円以下の楽器は使ってないだろうし、クラシックの場合は持ち替えで2本必要だから最低100万、なんなら200万円以上も楽器にかけてるのだって当たり前。それに比べたら、ひとつの機材が10万円するのも納得です。
しかし、楽器と比べないとスッキリしないほどに、自分は機材から遠い世界にいたんだよなー、とあらためて思います。
積極的な気持ちからではなく成り行きで始めた曲作りに、ここにきて救われるなんて。
演奏はできなくても音楽をやれるし、それを通じて他の人たちと関わることができて、おかげで気持ちを保つことができる。
最近は、ずっとファンだった南米のミュージシャンとファイルのやり取りをして曲を作っています。
こんなこと、楽器を演奏してるだけでは実現しなかったでしょう。
演奏の楽しさとは違うけど、やっぱり音楽は楽しい!

宅録とは別に、秋にはof Tropique でのレコーディングも予定しています。
そっちも、いろんなことが二転三転して、けっきょくどんなに計画立てたってその通りに行くことなんてないんだよなーと、つくづく実感しています。
コロナも含めて、予期せぬ出来事は、世界を広げる種なんだ。
と自分に声をかけながら、機材の予算ぐりをする日々を過ごしています。




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